「いのおぶっかいろく」

備後三次藩、現在の広島県三次(みよし)市に、江戸中期「稲生武太夫」という侍がおりました。
寛延2年(1749年)武太夫が16歳の7月、事件は起こったのです。
元服前の武太夫は、平太郎と呼ばれていました。


平太郎は、ある屋敷の留守を任されたのでした。
ただ、そこにいて一月留守を守るだけのはず。
ところが、平太郎が来るや夜毎怪異な現象やら物の怪が現れます。
話を聞いて、力自慢の力士や調伏せんとする僧侶がやってきますが、いずれも逃げ出す始末。


一ヶ月経っても、一向に臆するも動ずるもない平太郎の豪胆さに卷族も舌を巻きます。
そして、魔王「山ン本五郎左衛門」が現れます。
「山ン本」は「さんもと」と読みます。「やまもと」ではありません。
さて、山ン本五郎左衛門が言うには、もう一人の魔王「神野悪太郎」とともに、若者を脅す賭けをしたが、貴殿の胆の太さには感服仕まつる。
ついては、この槌を置いて行くので、吾を求めるときはこれを振れ、と言って去って行きました。


後に、この話を絵巻物にして藩主に献上することになります。
それが、「稲生物怪録」というわけです。
この物語の凄いところは、オリジナリティが豊富で語り尽くされた妖怪変化ではない様々な物の怪や怪異現象が描かれていることです。
ひらのXX的日常-yokai


これが明治以降、泉鏡花らの作家により小説化されています。
じつは私が「稲生物怪録」を知ったのも、稲垣足穂がノベライズした「山ン本五郎左衛門只今退散仕まつる」を読んだからです。


図書館で「稲生物怪録」を見たとき、思わず手にしてしまいました。
絵巻は絵巻で面白いのですが、やっぱり小説で頭の中に映像を描くのも楽しいものです。