日本の民法には、事務管理という条文があることをご紹介したところ、やたぶーさんから「アメリカに民法があったら」というコメントをもらいました。


アメリカには、民法がありません。
その辺のお話をしましょう。
正確にいうと、民法典がないと言います。
法典というのは、平たく言えば法律の条文が書物になっているってことです。
日本の民法は、明治になってフランスとドイツに学んで作ったものです。
大きく分けて、民民の権利関係を調整する部分のことを「財産法」と呼んでいます。
権利の主体となる人、物権、債権、契約といったものが「ローマ法」を基本に定められています。
それでも、手付倍返しのような日本の商習慣も取り入れられています。
一方、親子夫婦、相続に関する規程は、「身分法」と呼ばれ、江戸時代までの日本の慣習をベースに作られています。


このように、一般的抽象的な決まりを法典として整備しているローマ法のような法律体系を「成文法」と言います。
成文法の良いところは、「売買」とか「賃貸借」といった契約の内容が予め決まっているので、当事者に特段の意思のない限り法律が予定した通りの解釈がされます。


これに対して、イギリスやアメリカには、民法典がありません。
「判例法」とか「不文法」と呼ばれます。
判例法ってくらいですから、訴訟社会なのもうなずけます。
だから、契約書にこと細かに記載するのです。
日本だと、「この契約書に書いてないことは、民法その他関係法令および慣習に従う。」とか契約書の最後に書くものですが、

アメリカは違います。
「ここに書かれている以外に合意していない。」
って書くのです。
また、日本だと、契約書の最後に紛争時の「裁判所の合意管轄」を入れますが、アメリカだとそんなもんじゃありません。
州によって法律が違うんで、準拠法まで決めておくのです。
たとえば、マクドナルドの契約書。
私は昔アメリカのマクドナルドのフランチャイズ契約書を入手して翻訳したことがあります。
マクドナルドという会社自体は、デラウェア州(法人税が安いんです。)にあって、準拠法はイリノイ州法によると定められています。
イリノイ州というのは、事業会社を設立しやすい法律になっているからです。


金融の本場はロンドンとニューヨークなわけで、金融関係の法律は英米法に倣うようになってきました。
日本の「金融商品取引法」という法律は、「証券取引法」を改正したものと一般には言われています。
しかし、実際には手直しではなく、骨格そのものから変えています。
金融庁の担当官の説明会に参加したところ、担当官自身が日本法の用語を使いながら、英米法の精神を具現化と語っていました。


従来の証券取引法は、有価証券というものを種類を限定列挙していました。
ところがアメリカでは、有価証券とか投資契約といったお金を出資して見返りを受ける契約を全部有価証券として法の網がかかります。
日本では、予め限定列挙した商品しか法規制にかからないため、次から次へと法規制にかからない「ねずみ講商品」が登場しました。
しかし、英米法の精神を具現化した新しい金融商品取引法では、どんな商品が出てきても対応できます。
(結局、金融庁の庁益拡大なんですけどね。)


これを脱法ハーブの取締りに応用できないもんでしょうか。
薬事法では、化学物質を予め限定して取締りをしています。
化学式をほんの少し修飾しただけで、規制対象外になってしまっています。
金融商品取引法のような法律の立て方もあると思うのです。


英米法とローマ法のどっちが優れているというものでもありません。
しかし、こんな違いがあることを知るのは有意義なことです。