【日本経済新聞】
欧州航空防衛大手でエアバスの親会社でもあるEADSは20日、東京―ロンドン間を現在の約5分の1となる2時間半で結ぶ超音速旅客機の開発計画を明らかにした。ジェットエンジンとロケットエンジンなどを組み合わせ、超高々度を飛行する。2050年ころの実用化を目指している。
同日、パリ郊外で始まったパリ国際航空ショーにあわせて発表した。「ZEHST」と名付けた機体は、ロケットに翼を付けたような構造。後部は燃料タンクで占められ、旅客は胴体の前部に搭乗する。
現在の旅客機と同じように空港からターボジェットエンジンを使って離陸し、その後はロケットに切り替えて急上昇。さらに一定の高さに達したらラムジェットと呼ぶ超音速用エンジンを点火し、いまの旅客機の約3倍の高度の上空約3万2千メートルをマッハ5(音速の5倍)で巡航する。
ターボジェットの燃料には植物から合成したバイオ燃料を使う。ほかのエンジンは水素と酸素が燃料のため、排出するのは水だけ。温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)の発生はゼロで、環境負荷も少ないという。(パリ=古谷茂久)
【解説】
「ZEHST」とは、Zero Emission Hyper Sonic Transporter の略だと思われます。
(二酸化炭素)ゼロ排出極超音速機という意味です。
別の報道ともあわせてこの機体を分析してみました。
ターボジェットというのは、タービンを使って空気を圧縮して燃料を燃焼させて推力を得る通常のジェットエンジンです。
ラムジェットとは、高速で空気中を飛んでいるとき「前面から受ける圧力=ラム圧」を利用して燃料を燃焼させるジェットエンジンです。
それにロケットエンジンを組み合わせた3種類のエンジンを使う計画です。
イラストの後部緑色をしたのがターボジェットエンジンで、翼の下にあるのがラムジェットエンジン。
2基のターボジェットエンジンの間にロケットエンジンがあります。
離陸時には、現在のジェット機と同様にターボジェットで飛び立ちます。
なぜならラムジェットエンジンは静止時には作動できないからです。充分な風圧が得られないうちはエンジンが作動しません。
かといってロケットエンジンは酸化剤も搭載しないといけないので、燃料が多くなりすぎます。
したがって、ターボジェットエンジンで飛び立ちます。
そして、充分な高度まで上昇後ロケットに点火して超音速まで加速して、ラム圧が高くなったらラムジェットエンジンで飛びます。
一つの機体に3種類のエンジンを積んだ航空機というのを今まで見たことがありません。
機体の半分は燃料が占めるという驚くべき構造です。
現在の航空機は翼に燃料を積んでいますが、この機体では翼が小さすぎてその役目を果たせそうもありません。
結局こんな構造にして乗客も20名程度という計画になってしまったようです。
さて、この技術の現状というと・・・
バイオ燃料を使ったジェット機はすでに飛んでいます。
アメリカのFA/18スーパーホーネット戦闘攻撃機は、バイオ燃料入りのジェット燃料を使っています。
性能的にも通常燃料と遜色ないようです。
ラムジェットエンジンは、音速の5倍から8倍のスピードで効率がよいエンジンで、日本のJAXAも研究しています。
最大の課題は、この単純な構造のジェットエンジンと3種類のエンジンを搭載するシステムの2点でしょう。