恐るべきことに医師の香山リカ氏がテレビで説明していたことが不正確であるので、私が解説します。
タミフルという薬は、ウィルスが細胞内で増殖し外に飛び出す段階で待ったをかける仕組みで効きます。
つまり、ウィルスが次の細胞に取り付いて増殖できなくなるということです。
風邪薬の宣伝で「鍵穴をブロックします」というのがありますが、原理は同じです。
細胞から飛び出すために必要な酵素を作る鍵穴に形と電気的結びつきで勝るタミフルが先に塞いでしまうのです。
薬は開発段階から耐性株の出現を予想していますが、耐性株は感染力がそれほど強くないと思われていました。
しかし、ヨーロッパでは昨年かなり耐性株が多かったようです。
これは、タミフルの使用量が世界一多い日本ではそんな傾向がなかったことを考えると、従来の耐性獲得メカニズムと違う理由で耐性を獲得したとしか思えません。
幸いなことに、同じ作用機序のリレンザと交差耐性がなさそうなので代替薬剤は存在します。
このほかにシンメトレルという薬もあります。
こちらはパーキンソン病治療薬として認可されたいた薬剤です。
パーキンソン病には、他にもっと効く薬があるので抗インフルエンザ薬として使われるように認められました。
全然関係ない病気に効くというのが不思議ですが、この薬はA型インフルエンザウィルスにしか効きません。
B型には効果がありませんが、今流行しているのはほとんどA型です。
インフルエンザウィルスは簡単な構造だから簡単に変異すると香山リカ氏は説明していましたが、それも正確ではありません。
インフルエンザウィルスは、我々真核生物の遺伝子DNA(デオキシリボ核酸)ではなくRNA(リボ核酸)を遺伝子にしています。
遺伝子DNAと比べてRNAは遺伝子複製のミスが多いことが知られています。
そのため、我々より100万倍速く遺伝子が変異します。
もちろん有害な変異のため自滅することもありますが、彼らは数が多いのです。
失敗する株があっても成功する株もあります。
こうしてインフルエンザの薬剤耐性株は誕生するのです。
インフルエンザを防ぐにはワクチンの接種が有効ですが、予想された型と合わないと効果がありません。
ワクチンはタミフル耐性または感受性(効くということ)に関係なく効果がありますが、型が合わない場合タミフルが効くかどうかはわかりません。
その場合は別の薬剤を使えばいいわけです。
ところで、カメラのデジタル化でこれから何をするんだろうと思われている富士フィルムですが、このごろ中島みゆきと松田聖子のCMで化粧品に進出しています。
長年の研究で見つけた化学物物やフィルムに使っていたコラーゲンの技術が化粧品に応用できるということです。
さらに、感染症薬で国内トップレベルの開発力を有する富山化学を買収して医療薬への進出も図っています。
その富山化学で注目されているのがT705という抗インフルエンザ薬です。
これはタミフルとは全く違う作用機序なので交差耐性は考えられません。
新たな特効薬として期待されています。