岸田文雄首相の青ざめた表情が目
に浮かぶ。新型コロナウイルスに
感染したのは気の毒だが、旧統一
協会と自民党の癒着に知らぬ顔を
決め込んだ結果、毎日新聞の世論
調査で内閣支持率が一挙に16ポイ
ントも下落し、36%になった。不
支持率も54%と政権発足以来最低
になったが、教団による被害拡大
に怒る民意を甘く判断した必然の
数字だろう。教団と閣僚、党幹部
らの関係の深さを示す証言が次々
発覚しているのに、嘘で言い逃れ
する姿を次々見せつけられている
のが大きい。岸田首相が厳しい対
応をせず、今なお教団を「当該団
体」とあいまいにしていることへ
の反発も強い。このまま政権が何
の手も打たず、教団への「解散命
令」を出せなかったら、社会が致
命的なダメージを受けるだろう。
この問題は政権与党と教団のもた
らした「人の生き血を吸う」よう
な所業がはびこる病巣が深刻であ
るからだ。
岸田首相はこのまま野党が要求す
る臨時国会の召集を10月まで先送
りする意思を固めたようだが、国
会論戦を避ける手法は安倍・菅政
権と同じだ。明らかに憲法53条違
反で、野党の要求を重く受け止め
るべきとした岡山、那覇地裁の判
決にも逸脱しており、また新たな
提訴がだされそうだ。「私には聞
く耳がある」と言いながら、その
言葉に反する言動を繰り返す岸田
首相は期待を持たせた点で、以前
の政権より質が悪い。それでも「
丁寧で寛容な政治」と言い続ける
厚顔ぶりである。昨日の記者との
オンライン会見で「自民党として
は組織として関係がなかった」と
言い張ったが、新内閣の半数以上
に教団との癒着が指摘されてしま
った後の空疎な答えで、これから
も「何もしない」と言っているの
同然だ。
トップが毅然とせず、日和見的な
態度を改めないから、配下の党幹
部や閣僚らも、ひたすら頭をすく
め反省した素振りを見せるだけだ
。「教団と自民党は組織的関係は
ない」と言い切っていた茂木敏充
幹事長は強い批判に「社会的に問
題が指摘される団体と党は関係を
一切持たない」と釈明に追い込ま
れた。深い関係がなかったのなら
、こんな言い訳をする必要はなか
ったはずだ。唐突に党運営の指針
「ガバナンスコード」を盛り込む
と表明したが、これまでの癒着実
態の解明なしでは、言葉遊びと受
け取られるだけだろう。
教団名を改称した2015年当時
の文科相だった下村博文氏は、そ
の後も認証した明白な根拠を自ら
示せていない。教団は本部のある
韓国・ソウルで日本の信者らによ
る大がかりなメディア糾弾集会を
開催した。被害の拡大に加え、露
骨な反社会活動を繰り広げるのを
根本的に止めるには、宗教法人の
解散命令か反カルト法制定しかな
い。法制定はまだ時間がかかるの
で、当面は政府が宗教法人認可を
取り消し、実質的な解散命令を出
すのが有効ではないか。しかし、
岸田政権の体質ではこのまま黙っ
て、批判の嵐が通り過ぎるのを待
つだけだろう。
毎日新聞の世論調査では、政権に
さらなる痛手となる数字が出てい
る。安倍元首相の国葬について、
反対が53%と、賛成の30%のダブ
ルスコアに近づいてきたのである
。自民党幹部と教団との深い付き
合いはまだまだ出てきそうで、教
団票を長年差配し、広告塔になっ
てきた安倍元首相に弔意を示した
くない人はまだ増えそうだ。各地
で国葬への根拠なき国費支出差し
止め請求が出された。各地の弁護
士会が中心になって今後も提訴が
続きそうだ。
国葬反対の署名運動もスタートし
た。上野千鶴子さんや佐高信氏ら
有識者は今日からオンライン署名
を呼びかけている。法律学者の多
くが国葬には根拠法がなく、政権
が内閣府設置法を拠り所にしてい
る点に無理があると指摘している
。この法律には国葬をいう文言は
なく、内閣法制局が忖度して説得
力に欠ける法解釈で政権にすり寄
ったように映る。国会開催中なら
必ず質疑が集中していただろう。
このまま反対の声を無視して国葬
を強行しても、政権浮揚の効果は
ない。むしろ分断を招いた政治責
任が厳しく問われることになるの
ではないか。
【2022・8・23】