「ならず者」たちが招いた惨状 | 平野幸夫のブログ

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ギリシャ語を語源とする「クロニクル」という
言葉があります。年代記、編年史とも訳されま
す。2014年からの独自の編年記として綴りま
す。

「愛国心はならず者たちの最後の

砦である」。石原慎太郎元東京都

知事の訃報を聞いて、18世紀の

英国の詩人、サミュエル・ジョンソ

ンの警句が頭に浮かんだ。数々

の差別発言や暴言を吐きながら

も、保守層から強い支持を受け

続けた生涯だったが、これほど言

行不一致ぶりを見せつけられた政

治家を知らない。今は礼賛報道ば

かりが目立つが、かつて「天下の

暴言男」と呼ばれたのは、戦後民

主主義を否定しナショナリズムを

駆り立てた「ならず者」に例えられ

ても仕方ない面があったからだろ

う。反対意見に罵詈雑言を投げ

つける「ネトウヨ」がSNS上で跋

扈する現在の風潮の下地を作っ

た先駈けでもなかったか。

サミュエル・ジョンソンだけでなく

多くの古今の賢人が愛国主義の

害毒について言及している。「愛

国主義という卵から戦争が生ま

れる」(モーパッサン)、「ナショナ

リズムは幼児の病気である」(ア

インシュタイン)……。いずれも

偏狭な政治信条によって民主

主義による批判を認めず、やが

て専制政治や戦争を招きかね

ない警鐘であった。石原氏が政

治家として残した最大の負の

遺産は「尖閣諸島を東京都が買

う」と言い出し後の国有化を主導

したことだ。以来日中関係は一

挙に悪化し「戦争の芽」をもたら

した。

石原氏は気に食わない相手には

平気で「シナ」「ババア」などと罵倒

し、よく薄ら笑いをしていた。「作家

だから」が口癖で、常に自分の言

動がもたらした政治責任からは逃

げ続けた。政治史に詳しい中島岳

志・東京工業大教授が先日、共同

通信に寄稿した評論によると、石

原氏は戦後当初、社会党左派を

支持し、再軍備に反対していた。

憲法改正にも反対で「コスモポリタ

ン的で開放的な今の憲法の明る

さがいい」と表明していたという。

しかし、作家として評価される始め

ると「戦後的価値の創造」を追求し

たあげく、国家主義に傾倒していっ

た。自分が知らなかった「石原前史

」であり、その極端な変節ぶりに改

めて驚く。検証すると、「自分だけ

が特別」という優生思想にとらわれ

その「幼児性」は安倍晋三元首相

ら右翼政治家と共通する。

晩年、石原氏は維新の橋下徹氏

に自分を重ね「僕は橋下君を首相

にしたい」「若い頃のヒトラーにそっ

くり」とまで言って評価したのである

。維新政治はそんな石原氏の偏

狭な価値観を見事に引き継いでい

るようにみえる。一例を挙げれば

、吉村洋文大阪府知事は大阪市

長時代、長年友好都市関係を維

持してきた米国・サンフランシスコ

市が韓国の従軍慰安婦像の撤去

要請を断ったことから、提携関係

を一方的に断ってしまった。石原

氏の歴史修正主義とレイシズム

が継承された表れでもある。

石原氏の民主政治に対する「罪状

」には他に、新銀行東京の破綻、

唐突な築地市場の移転、海外で超

高級ホテル宿泊などの豪遊、息子

の絵画購入などがあり、特に都政

私物化は枚挙にいとまがないほど

で、発覚すると「メディア攻撃」も際

立った。

こんな「石原DNA」を大阪で引き継

いだ維新政治は今惨状をもたらし

ている。コロナの感染拡大が東京

以上に深刻だ。人口が半分にも満

たないのに、大阪の死者数はつい

に東京と同じ3000人を超えてしま

った。テレビ出演を繰り返して「や

ったふり」をしても結果は「吉村失

政」と言うしかない。大阪市は1月

末から2月2日までの8日間の感

染者数を計上していなかった。実

に1万2700人もの感染者を隠し

ていたことになる。松井一郎市長

は「今の人的資源では対応が難

しい」と言い訳をしているが、予め

危機を予測して体制を整えておく

のが市長の責務ではないか。

メディアは「石原礼賛」報道をして

いる時でない。こんな人命軽視が

まかり通る維新政治を厳しく監視

・追及する責務がある。
                 【2022・2・6】