安易に「敵基地攻撃」口にするな | 平野幸夫のブログ

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ギリシャ語を語源とする「クロニクル」という
言葉があります。年代記、編年史とも訳されま
す。2014年からの独自の編年記として綴りま
す。


「すべての戦争は自衛の名のもと
に始まる」。今こそかみしめたい
言葉だ。


 菅義偉首相が今週訪米するのを
前に、遠くから戦争の危うい足音が
聞こえるようだ。昨秋、自民党の
総裁選で菅首相に敗れた岸田文雄
・元外相が「敵基地攻撃」を容認
する提言をした。これまで党内で
リベラル志向と見られていた派閥
「宏池会」トップの豹変である。
今秋の総裁選で、安倍晋三前首相
のいる右派「細田派」の支持を獲
得したい魂胆を隠さない。米中間
の緊張が高まる中、バイデン米大
統領は菅首相にこれまで以上に防
衛協力を求めるのは必至だ。緊張
関係の緩和に見向きもせず、二人
が競うように米国の軍事力に頼ろ
うとする姿に眉をひそめたくなる


「敵基地攻撃」は敵のミサイル発
射能力に直接打撃し、その攻撃能
力を減らす能力を保有することで
、自衛のための戦力しか容認して
いない憲法にも違反する解釈であ
る。安倍前首相は辞任前に、その
能力保有を訴えた談話を発表して
いたが、心ある防衛当局幹部から
は「事前に相手の動きを察知して
先制攻撃する能力など持てない」
と否定的である。


下落した内閣支持率が上がらない
菅首相が訪米して防衛上の成果を
あげようとしているのを見て、岸
田元外相も敵基地攻撃容認に動い
たとみられるが、そもそも経済重
視で軽武装を基本方針としてきた
宏池会の路線からも逸脱している
。安倍内閣でも憲法違反の安保法
成立に外相として協力してきた岸
田元外相の無節操さがまた露わに
なった形だ。


次期衆院選で、仮に菅政権に「N
O」の民意が示されても、野党連
合への政権交代がすぐに実現する
か、壁は高い。仮に与党が敗れて
も、菅首相の代わりに岸田元外相
が次期政権を担う可能性は依然残
る。そうなれば、岸田元外相が宏
池会の基本路線など無視して、右
派に一段と擦り寄る可能性もある
のではないか。


岸田元外相は地元での河井克行夫
妻の選挙違反事件後の参院補選で
「敗けるわけにはいかない」と発
言しているが、前回選挙では自分
が担いだ候補に対抗して杏里前議
員を擁立して地盤を荒らしたのは
安倍前首相と菅首相である。岸田
元外相が自分の候補を守れなかっ
た体たらくを棚に上げ、今回自民
候補の支持を求めるのは筋違いで
ある。本来なら約100人もの買
収事件が起きる腐敗した選挙風土
を反省し、候補見送りするのが筋
のはずだ。まともな有権者なら、
自分の顔をつぶした張本人の安倍
前首相になお支援を求める岸田元
首相を情けなく思い、資質にさら
なる疑念を持つだろう。


中国公船による尖閣諸島周辺への
領海侵入が続く中、米国のバイデ
ン政権は同諸島が日米安保の防衛
区域に入ると表明、防衛当局幹部
らから胸をなでおろす声が聞こえ
る。しかし、それは有事の場合、
米軍が直接戦力を投入するという
約束でない。それどころか米軍関
係者からは「ただのロック(岩)
のために血は流せない」という見
方も伝わる。一方で中国が5、6
年後に台湾侵攻を実現するとみる
米台のアナリストも複数いる。今
後日本が、台湾防衛のため戦力の
提供を米国から求められる恐れも
出始めている。


今週の日米首脳会談では、日本が
尖閣防衛の引き換えに台湾の防衛
協力を了解しないか、強い懸念が
ある。支持率ダウンの政権は洋の
東西を問わず、有権者の目を外に
向けさせるため「外敵」を作るの
が常だ。しかし、今日本の取るべ
き道は双方の緊張を少しでも解く
ために、損得勘定を示し仲介の労
をとることである。安易に「敵基
地攻撃」などを容認すれば、中国
であれ北朝鮮であれ、想定された
国がさらなる攻勢をかけてくるこ
とを思い知っておくべきだ。


         【2021・4・13】