哀切極まる戦没画学生の絵 | 平野幸夫のブログ

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ギリシャ語を語源とする「クロニクル」という
言葉があります。年代記、編年史とも訳されま
す。2014年からの独自の編年記として綴りま
す。



絵画を見てこんなに哀切な気持ち
が募ったことはなかった。神戸・
六甲アイランドの「神戸ゆかりの
美術館」で開催中の特別展「無言
館 遺された絵画からのメッセー
ジ」で展示された絵画には戦地に
散ってしまった画学生らの故郷や
愛する人々の深い思いが込められ
ていた。以前から行きたかった長
野県上田市にある美術館「無言館
」の絵が見られるといい、心待ち
にしていた。戦没画学生が絵の一
枚一枚を通して、きな臭くなった
今の時代に生きる自分が叱咤され
ているような気分にもなった。


亡くなる直前の菅原文太さんがテ
レビのニュース番組で右傾化する
政治を憂いながらこの美術館を紹
介していたのを見て以来、ずっと
「無言館」の絵を観覧したい気持
ちを持ち続けていた。それが今回
の特別展で実現した。ずっと約1
30点の絵の存在感に圧倒され通
しだった。遠い戦地で没した画学
生らは文字でメッセージは残して
いないが、画布の隅々に望郷、家
族への深い思い込めていたのが分
かる。


無言館館主の窪島誠一郎氏が19
97年に綴った鎮魂の言葉が紹介
されており、胸に迫る。


「遠い見知らぬ異国で死んだ画学
生よ私はあなたを知らない。知っ
ているのはあなたが残したたった
一枚の絵だ。その絵に刻まれたか
けがえのないあなたの生命の時間
に問いかけたい。どうか許してほ
しい50年を生きた私たちの誰もが
これまで一度としてあなたの絵の
せつない叫びに耳を傾けなかった
ことを」


東京美術学校(現東京藝大)や帝
国美術学校(現多摩美、武蔵美)
の俊英だった画学生らは絵筆を銃
にかえて戦地に出征していった。
そしてその死の直前に遺した作品
はどれも命を燃やすような鮮烈な
印象を与える。故郷の風景、最愛
の家族、夢などを描いた画学生か
ら高い精神性と品格を感じさせる
。中でも、愛する妹が肺結核で死
んだ知らせを戦地で聞き、慟哭し
た興梠武の「編み物をする夫人」
や浜辺の花を見つめる女性を屏風
絵で描いた田中兵部の作品などが
目を特に引いた。



コロナ禍でなかなか外出もできず
、久しぶりの美術展だったが、命
の大切さとはかなさ、戦争の醜悪
さを教えてくれた貴重な機会にな
った。心の中で反戦の思いを募ら
せ、画学生らに合掌した。まだ見
てない彼らの作品が約600点も
収蔵されているという上田の「無
言館」も訪れてみたい。神戸の特
別展は11月29日まで。


   【2020・9・21】



(写真は興梠武の作品のポスタ

ー、田中兵部の屏風絵の順)