「年末ぐらいに接種できるように
なるかもしれない」。安倍晋三首
相が新型コロナウイルスのワクチ
兆ン開発中の米英2社と買い取り
交渉をしていることを自分がお気
に入りのネットテレビ番組で明ら
かにした。17日に閉じる国会でも
説明しないままの、前のめりぶり
だ。前例のない「予備費10兆円」
を野党が認めてしまった末の独断
でもある。開発中のこのワクチン
はまだ治験が始まったばかりなの
に、まるで自分の財布のように大
盤振る舞いするのは、野党が第二
次補正予算案成立に手を貸したせ
いもある。官製談合疑惑が深まる
「持続化給付金」を追及する素振
りを見せても野党は首相にふらつ
く足元を見られている。
ネットサイト「ニコニコ動画」に
出演した首相は機嫌良さそうに視
聴者の疑問に答えていた。それが
かえって「国会には出たくない」
という普段の気持ちを推量させる
。首相は野党議員から不都合な質
問を受けた時、ほぼ二つのパター
ンの態度をみせる。側近官僚が作
成した文章を何度も読み返すか、
担当大臣に答弁させるかである。
政策への疑念に自ら答えようとせ
ず、ごまかそうとする姿勢はこれ
までの歴代首相の中でも突出して
目立つ。
コロナ予算のように、国民にいつ
も以上に丁寧な説明が求められる
時でも、真摯な対応をしなかった
。それを自民党支持者からもから
も見破られから、内閣支持率が急
落し20%台(毎日、朝日調査)に
なったのである。コアな支持者か
らも本性を見破られたともいえそ
うで、もう元のように支持率が回
復することはないのではないか。
そんな焦りからか、一見耳触りの
良い方針ばかりが続々と語ら始め
た。「ワクチン確保交渉」もその
一環だろう。だが、この交渉には
大きな危うさが潜んでいる。なぜ
なら、世界中でコロナのワクチン
開発中の研究拠点・グループは95
もあり、首相が交渉先として明ら
かにした米モデルナ社や英アスト
ラゼネカ社はまだボランティアに
投与する治験を始めたばかりだか
らだ。まだどれだけ副作用がある
かどうか分からない段階で4億本
の製造を始めたという二社のワク
チンに日本が巨額買い入れを約束
するのは、前のめり過ぎる。
本来なら、感染症治療の専門家ら
の意見を聞き、副作用の検証の目
途が立ってから交渉すべきなのに
、それを無視するのは功名心があ
るからだろう。今ある危機を直視
せず、十分な対策を放棄したまま
半年先以上の外国製のワクチンに
すがるのは明らかに方向性を誤っ
ている。
国内でも大阪大のDNAワクチン
など複数の開発が進行中だ。政府
が最優先に支援すべきはこちらで
はないか。「安倍側近」だけで策
定したコロナ予算の危うさは「ア
ベノマスク」「持続化給付金」「
30万円補償」の失敗や転換で明ら
かである。野党は10兆円の予備費
のうち、中身が不明の5兆円分の
大まかな使途だけを聞いて賛成に
回ったが、大いなる戦術の誤りだ
った。いくら閉会中審査を求めて
も、この政権が効く耳を持たない
のは明白だ。
今さらながら、野党が補正予算の
賛成に転じたのか、分からない。
17日の閉会まで残り2日。「持続
化給付金」のトンネル団体をあぶ
り出し、巨額の中抜きを認めさせ
ることはできる。そのうえで、せめ
て経産相解任動議などを連発し
徹底抗戦する姿を見せなければ
、次回選挙の展望さえ失うのでは
ないか。
東京都ではまた感染者が拡大し始
めているのに、小池百合子知事は
「アラート解除」と意味の分から
ない政治判断を下した。明らかに
もう都知事選向けのパフォーマン
スしか頭にないようにみえる。安
倍首相と小池知事に共通している
のは、「自分ファースト」による
その場しのぎの政治判断である。
【2020・6・15】