節度なき「改元報道」 | 平野幸夫のブログ

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ギリシャ語を語源とする「クロニクル」という
言葉があります。年代記、編年史とも訳されま
す。2014年からの独自の編年記として綴りま
す。

年末年始に「平成最後の……」と
いうフレーズを何度聞いたことか
。繰り返されるその言葉によって
、時代が転換する祝賀気分が醸

成されている。しかし、改元されて
も、西暦が定着した日常生活に何
の影響がないことは言うまでもな
い。なぜこれほど大仰に取り扱わ
れるのか、心して向かい合わなけ
ればならない。知らず知らずのう
ちに、天皇賛美の「皇国史観」が
刷り込まれてしまう危うさがある
からである。節度なき改元報道や
歓迎ムードは、戦争を知らない世
代をやがて戦前の「天皇制賛美」
の価値観に逆戻りさせてしまいか
ねない。本来なら警鐘を鳴らすべ
きメディアの無思考な報道ぶりに
、年初から懸念が募るばかりであ
る。


昨年に改元が決まっておきながら
、なぜ新年号が決まっていないの
かをまず考えておきたい。安倍晋
三首相の支持母体「日本会議」の
メンバーが、新天皇の即位前の新
年号制定に強く反対をしたからで
ある。市民生活に影響は少ないと
は言え、経済活動をスムースに行
うためにも年初の制定を求める声
が強かったのは当然であろう。し
かし、そうならなかったのは、5
月1日の即位後の制定を主張する
首相を取り巻く保守派学者らに引
っ張られてたからだ。


天皇を象徴ではなく、戦前の元首
扱いにもどそうとする保守派は、
天皇の権威をより高めようと、即
位前の事前公表に強く反対してい
た。天皇退位を実現する特例法が
昨年夏に成立、その付帯決議に「
国民生活に支障がないように」と
の文言があったのにかかわらず、
それが守られなかったのである。


このこと一つ見てみても、改元を
契機に改めて「皇国史観」を国民
の意識に植え付けようという目論
見がはっきりみえる。しかし、事
前公表なき改元は混乱をもたらす
という声がさらに高まっていた。
首相側近は、折衷案として直前の
4月10日に予定されていた天皇即
位30周年記念式翌日の公表を提案
した。しかし、これも7日と14日
の統一地方選の間になるため、降
ろさざるを得なかった。


半年以上にわたるこうした改元を
めぐる混乱とそれに振り回された
メディアの改元報道は、安倍首相
の改憲内容と表裏一体を成すと見
るべきだ。首相は当面、自衛隊明
記など4項目の改憲を掲げている
が、首相が主導した自民党の改憲
草案には天皇を象徴でなく元首と
位置付け「天皇制国家」の復活が
本音である。安保法制、特定秘密
保護法、共謀罪など首相自ら現憲
法を遵守していないにもかかわら
ず、自民党の目指す新憲法の遵守
を国民に求めている。


米国第3代大統領、ジェファーソ
ンは「憲法を制定するのは、政府
への猜疑に基づいているからだ」
とし、政府が悪さをしないよう、
憲法で縛っておくという考えを述
べた。こうした立憲主義の精神は
憲法を政府を縛る道具で、不都合
なことをさせないためにあると位
置付ける。これに対し、自民党案
は国民を縛ることをあからさまに
明記している。国民主権から国家
権力による統制への逆戻りだ。


天皇の元首制国家は皇室行事を大
仰に飾り立て、国民主権の意識を
希薄にさせながら復活する。あの
朝日新聞の正月紙面は昭和天皇が
和歌を推敲したメモの発見を1面
スクープで扱い、続報も連発して
いる。先の戦争を「あゝ悲し」と
記した下りを紹介、「人間天皇」
の慨嘆ぶりを浮かび上がらせた。
しかし、そこには大元帥としての
「天皇の戦争責任」に踏み込んだ
解説はなく、この時期の大スクー
プ扱いに強い違和感を覚えた。改
元に続く改憲が眼前に迫ろうとい
うこの時期の時代錯誤的な紙面づ
くりに、多くの読者もあきれてい
ることだろう。


その証左に他の新聞はほとんど後
追いしていない。他のメディアに
は、担当記者の自己満足と大局観
を失った無批判な編集ぶりを他山
の石にしてほしい。そして改元に
向けて高まる世の中の祝賀ムード
の裏でほくそ笑む人々により警戒
心を高めたい。


          【2019・1・7】