W杯一色のテレビ情報番組を誰が
喜んでいるか。麻生太郎財務相が
30代前半までの有権者を「一番新
聞を読まない世代。新聞を読まな
い人は全部自民党なんだ」とうそ
ぶいたのは、政治に関心のない若
者が増えている世情を歓迎してい
るからで、思わず本音が出たのだ
ろう。残念ながら、発言は少なか
らず、当たっている。政治記事を
読まない若者の多くが保守志向で
あることは、紛れもない傾向だ。
それを助長させるW杯での「メデ
ィアのバカ騒ぎ」は若者に、大事
なことを忘れさせ、国威発揚の危
うい陶酔感を高め、罪深い。
麻生財務相はこうも発言し、新聞
界への敵視を隠さなかった。
「新聞とるのに協力なんかしない
方がいい。新聞販売店の人には悪
いが、つくづくそう思った」
政権中枢の現職閣僚がこれほど悪
し様に新聞報道への憤懣をぶちま
けたことはなかったのではないか
。これまでも自民党幹部によるメ
ディア批判もあったが、まだ少し
は節度もあった。麻生発言はたが
が外れた暴言で、新聞記事全体を
「フェイク扱い」するジャーナリ
ズムへの挑戦である。約100社
が加盟する新聞協会は一致して断
固抗議すべき時である。
ただ、麻生発言を裏返してみれば
、取材に裏付けられた記事が、今
の政権にとって不都合であること
を自ら認めていることになる。発
言は、そんな新聞記事が読まない
人が増えて欲しいという願望が強
く込められているようにみえる。
「若者の与党びいき」を示す興味
深いデータがある。「パラサイト
・シングル」や「婚活」という言
葉を生んだ山田昌弘・中央大教授
の調べによると、2016年の参
院選挙では18、19歳の投票先は自
民が40%を超えていた。公明の10
%を加えると、実に半分が与党指
示だった。これに対し野党は17%
にとどまった。1976年の調査
では自民が18%で野党その他は37
%だった。この40年間で与野党支
持割合が逆転したのである。別の
選挙出口調査では、10代から30代
の与党支持は約6割を超えたとい
う数字もある。(朝日朝刊から)
背景には若者のネット指向で、政
治記事が読まれなくなったことが
挙げられる。好きな分野のニュー
スしか興味を覚えず、難しい政治
関連の記事は敬遠されがちだ。新
聞と特性は一覧性と詳報性が高い
ことだ。世の中、何が起きている
かネットでは全体像がつかみにく
い。今こそ、複眼思考で権力を監
視する役目を担った新聞の出番で
ないだろうか。
山田教授は「少子高齢化で成長は
望めず、年金も危ういとか不安な
ニュースばかり。他の政党も新し
い社会のモデルを示してくれない
。若者に社会の将来に希望を持て
というのは無理でしょう」と分析
。「学生が欲しいのは、『プチ満
足』」と指摘するが、しかし、そ
の根本となる民主主義社会の根底
が、専制政治の嘘や隠蔽によって
崩壊していることに、若い世代は
気づいていない。しかし、やがて
その最大のツケを負うのが、自分
たちの世代であるを知ってもらた
い。
【2018・6・27】