放送法改正に警戒を怠るな | 平野幸夫のブログ

平野幸夫のブログ

ギリシャ語を語源とする「クロニクル」という
言葉があります。年代記、編年史とも訳されま
す。2014年からの独自の編年記として綴りま
す。


「答弁矛盾次々」「指示に不備」
……。陸上自衛隊のイラク派遣時
の日報問題について、新聞各紙や
テレビ報道は毎日のように謝罪し
てみせる小野寺五典防衛相の説明
を一見批判的に伝えるが、その言
葉遣いには微妙に安倍政権への配
慮がにじみ出ている。稲田朋美前
防衛相の「探したがなかった」は
虚偽答弁だったことが明白だ。一
連の経過はイラクの現地情勢が危
機的だったことを隠すためだった
ことを改めて示している。それな
のに前・現防衛相と安倍首相の責
任を問う記事が見当たらない。そ
んなメディアの腰が引けた報道が
森友・加計疑惑などで崖っぷちの
安倍政権の延命を手助けしている
ように見える。支持率低下にいら
立つ政権が検討し始めた「放送法
改正」はそんな放送業界の甘い姿
勢が呼び水になっている。


「佐川証人喚問」以後、安倍首相
は何事もなかったように、昭恵夫
人や今井尚哉首相秘書官らの喚問
に応じず、疑惑追及から逃げ切ろ
うとしている。財務省の決済文書
改ざんと同様に国会軽視が甚だし
い日報問題についても、首相自身
の釈明は聞こえてこない。制服組
に無視された稲田前防衛相のあま
りの統治能力のなさは、その見識
より思想的な近さだけで稲田氏を
起用した安倍首相の短慮をさらけ
出させた。ようやく今日、参院決
算委員会でその任命責任をも問う
集中審議が行われる。



安倍政権発足以来最大の危機状況
であることは確かなのに、テレビ
は相変わらず政治テーマを真正面
から扱わっていない。実力組織に
「シビリアンコントロール」が機
能していない深刻な事態なのに、
情報番組はほとんど扱わず、わざ
わざ避けているように見える。



森友疑惑ではここにきて、財務省
による決定的な「口裏合わせ」が
明らかになった。ゴミ撤去工事に
ついて「ダンプカー4000台」
相当の撤去はあったのかと当時の
福島伸享議員から追及された昨年
2月、財務省の担当官が「トラッ
ク何千台も使ったことにしてほし
い」と学園側に頼んでいたとされ
るが、麻生太郎財務相は否定でき
なかった。政権とNHK政治部か
ら「森友・加計報道」をさんざん
封じられてきたNHK社会部の意
地による見事なスクープだったが
、民放は満足に後追いしようとも
しない。このニュースだけでも、
不当な国有地払い下げだったこと
がはっきり裏付けられる。これま
での政権の釈明はほとんど虚偽だ
ったことになる。官邸にとって致
命的なニュースで、背任容疑立証
を進展させている大阪地検特捜部

が得た重要証言である。


特捜部の捜査と同様に政権にとっ
て最も怖いのは政権批判の世論動
向である。このままでは支持率の
回復は見込めるはずはない。それ
でも、外交などに有権者に目を向
けさせ、今国会の会期末までに万
一、内閣総辞職を回避できたとし
たら、今まで以上にメディア規制
を強化するはずだ。



その表れが、唐突に浮上した「放
送法4条の撤廃検討」である。こ
れまで安倍政権は同法4条に定め
る「政治的公平性」を盾に政府に
批判的にニュースを伝える「報道
ステーション」や「ニュース23」
なとのテレビ報道番組に、高市早
苗前総務相が「免許停止」措置な
どをほのめかしてきた。事実上「
恫喝」するような発言でもあり、
自民党の萩生田光一議員らも番組
批判文書を送りつけてきたことも
ある。


それなのに、今度は「政治的公平
性」を撤廃して、ネットテレビな
どの自由な参入を目指すという。
米国のトランプ大統領があれだけ
偽(フェイク)ニュースを流して
も、まったく批判もせず、政府広
報のような情報をたれ流しする局
を日本でも増やしたい目論見だろ
う。


これは1987年、米国連邦逓信
委員会が政治的にバランスある放
送を求めた「公平原則(フェアネ
ス・ドクトリン)を廃止したこと
で、多チャンネル化が実現したこ
とが背景にある。安倍政権は政府
にとって都合が良いニュースを流
してくれる局を多くしようとする
露骨な思惑が見える。民間放送連
盟からは今のところ「政治的に偏
った局ができる」と懸念する声が
出ているが、意見が一致している
わけではない。



政府寄りとそうではない局とで分
断されている現状で、政府が新た
な放送免許許可という「蜜」を示
したら、応じる局が出てくる可能
性がある。古今東西、政治の要諦
に「分断して統治せよ」という言
葉があるように、メディア経営者
はどちらにつくか政治判断を迫ら
れるはずだ。どう対応するのか。
視聴者からの厳しい視線が注がれ
ていることを意識してほしい。


安倍首相は4日の国家公務員の新
人研修の式で「高い倫理観の下、
細心の心持でで仕事に励んで欲し
い」と訴えた。嘘を並べる自らの
言動を棚に上げて「どの口が言う
か」という思いが募る。心ある経
営者にはこれからもその発する言
葉にゆめゆめ警戒を怠るなと呼び
かけたい。


    【2018・4・9】