政権延命助けた劇場型報道 | 平野幸夫のブログ

平野幸夫のブログ

ギリシャ語を語源とする「クロニクル」という
言葉があります。年代記、編年史とも訳されま
す。2014年からの独自の編年記として綴りま
す。

 

「応援していますから頑張ってく
ださい」。開票速報を伝えるテレ
ビ朝日の選挙特番中、富川悠太キ
ャスターは小泉進次郎自民党副幹
事長に、こうエールを送った。権
力監視の責務を忘れた口にしては
ならない言葉だった。今回の総選
挙報道は終始、安倍首相の森友・
加計疑惑隠しを意図した解散だっ
たのを忘れたかのように、小池百
合子希望の党代表による政党の離
散劇ばかりを伝えた。与党は当初
50議席減も覚悟したのに、圧勝し
た背景には、長期政権の腐敗を真
正面から報じなかったメディアの
劣化がある。



どの局も、小泉進次郎氏の応援ス
ピーチ画像を絶え間なく流し続け
た。「小池代表、(国政に)出て
も、出なくても無責任」など、そ
の口にするワンフレーズは父親の
小泉元首相に似て、うまい。不支
持率が支持率を上回る安倍首相よ
り、見栄えが良いのは確かだ。し
かし、この若手幹部にどんな実績
や発言の重みがあるのかを考える
と、過剰な放送量だったことを改
めて自覚すべきだろう。



政策の中身を問いかけることなく
、ただ選挙カーの上のスピーチ画
像だけを放送するのは、与党のイ
メージ操作に手を貸していること
になる。ちなみに、小泉進次郎氏
の発案した「こども保険」は税本
来の使途を無視した机上の思い付
きでしかない。それを複数の専門
家らから指摘され、今はもう説得
力を失った。そんな政治家を人気
だけでヒーロー扱いするのは、視
聴者の愚民化につながる。



一方で都知事選以降、「小池劇場
」と称し小池氏を過剰に持ち上げ
たのを忘れたように、手のひら返
しのように、小池氏の転落劇ばか
り伝える。しかし、これまで小池
氏の極右的な言動をどれだけ伝え
、チェックしてきたのか、問いか
けたくなる。直近では、関東大震
災で虐殺された数千人もの朝鮮人
犠牲者への追悼文を拒否したニュ
ースをきちんと報じたテレビ局は
どれだけあったか。歴代知事の判
断を翻した理由を新聞記事以外に
知ることはできなかった。記者会
見でも、たびたび答えなかったり
無視されても突っ込まなかった。
築地移転問題も先送り判断ばかり
。メディアが、きちんと批判をし
ていたら、小池氏があれほど増長
することはなかったのではないか
。メディアが小池代表に操られて
いたという、自問をすべきと時だ
ろう。


与党と野党の責任の重みは段違い
に異なる。前回衆院選で、自民党
が各局に「放送の公平中立」を執
拗に求め、圧力をかけたトラウマ
があったのか、討論番組も少なく
キャスターらの突っ込み不足が目
立った。たまに、森友・加計疑惑
を取り上げても、安倍首相から「
国会で誰も私が直接関与したと言
うものはいなかった」と言われる
と、たじろぐだけで、それ以上踏
み込んだ質問を繰り出せなかった
。自分だったら「総理が新獣医学
部の計画を知ったのが1月20日だ
ったと説明しても、誰も信じてい
ない。どんな付き合いだったのか
。職務権限に関わるのだから、き
ちんと疑念を晴らすためにも、加
計孝太郎氏も証人喚問すべきでは
ないか」と問い返す。いつもなが
らキャスターらの覚悟のなさと準
備不足に失望させられた。



政治報道のエンターティーメント
化による毒はキー局だけでなく、
ローカル局に回っている。近畿の
ある局が開票速報を、バックに学
園アニメの動画を使って学生同士
のけんかのように伝えていたのに
は、言葉を失うほど驚いた。若者
に迎合するような安易な番組作り
は、きっと彼らにもそっぽを向か
れるだろう。政治をアニメゲーム
しとしかみられないスタッフの頭
の中をのぞきたくなった。


一方で、わずかではあるが、解散
の本質を問いかけて褒めたい選挙
特番もあった。テレビ朝日系の「
選挙ステーション」のローカル枠
は夕方番組「キャスト」のコメン
テーターらが森友学園疑惑の端緒
をつかんだ木村真豊中市議をスタ
ジオに呼んで質疑応答をした。「
与党が圧勝しても森友疑惑がこの
まま消え去ることはない。引き続
き追及したい」という木村市議の
コメントは多くの有権者の共感を
呼んだはずだ。選挙の原点をしっ
かりつかんだ番組作りに敬意を表
したい。



この選挙ほどSNSの威力が発揮
された選挙はない。既存のテレビ
局は有権者の意識変化のスピード
に追い付いていないように見えた
。中でも選挙終盤、急速に支持を
拡大した立憲民主党の動向を伝え
るニュースが少なすぎた。比例区
では19・9パーセントを獲得、北
海道では自民党に2・4ポイント
まで迫る26・4パーセントを獲
得、議席は自民党と同じ3議席だ
った。弱小政党が爆発的に支持

を広げた大きなうねりを十分伝え

ていなかったと言える。



東京・新宿の広場に集まった数千
人の熱気はすさまじかった。推移
をフォローし続けていたら、立憲
民主党が野党第一党になるのが早
く予想できたはずだ。残念ながら
テレビ各局は政権の意向ばかりに
気を配り、大事な潮流を見失った
型通りの報道にとどまった。確実
に新しい芽が育っている印象だ。



安倍首相が「こんな人たち」と言
って大惨敗した東京都議選の悪夢
を振り払おうとした21日の秋葉原
は異常事態が起こっていた。それ
も十分な画像で伝えなかった。聴
衆が安倍首相に近づけないように
、警官らが道路を通行中止にして
日の丸の旗数百本が取り囲んだの
である。ネット上では「まるでヒ
トラーを囲む親衛隊のようだ」「
大人の塚本幼稚園状態」などとい
うコメントが絶えなかった。野次
と怒号が入り混じり騒然とし、ほ
ぼ同時刻の新宿で立憲民主党との
画像の対比を見せるだけで、双方
の支持者像が浮かび上がり、視聴
者の判断の有力材料になったはず
だ。


選挙報道は政権に委縮していては
、かえって不公平になる。表層的
に伝えるのではなく、有権者の微
妙な意識変化を見逃さない番組作
りを最重要にすべきだろう。


   【2017・10・25】