「すべてを知る女」が口封じのた
め在イタリア大使館の1等書記官
に異動させられた。ノンキャリア
の職員が破格の海外への栄転であ
る。安倍昭恵首相夫人付秘書だっ
た谷査恵子氏は経済産業省から出
向、まるで昭恵夫人の召使いのよ
うに使われた。最後は疑惑の中心
に立たされずっと同情さえ覚えて
いたのだが、身を守るとはいえ、
唯々諾々と受け入れたのかと疑念
が募る。大阪地検が捜査中の財務
省幹部による背任を隠ぺいするよ
うなこんな異常人事は、国民への
あからさまな背信である。安倍晋
三夫妻による国政私物化の被害者
の一人であったはずの彼女の官僚
人生に、きっと汚名として終生つ
きまとい、残念でならない。改め
て、「官邸中枢の策謀」が官僚人
生をスポイルさせる害毒の強さと
まだ本格捜査に入らない大阪地検
のふがいなさを思う。
1980年代後半、スイス・ジュ
ネーブの国連代表部大使ら複数の
大使が関与した外務省の財テクス
キャンダルを取材したことがある
。その時、国家公務員試験一種よ
り難関とされた外交官試験を通っ
た外務省のキャリア組と在外公館
の理事官らノンキャリアでの入省
組らとの身分格差が事件の背景に
あった。今回、谷氏が栄転した欧
州各国駐在大使館の1等書記官の
ポストは本来なら、東京大卒とは
言え、ノンキャリアの経産省職員
が就けるポストではない。海外勤
務経験もなく、イタリア語もほと
んど話せないという谷氏にとって
、破格の優遇で、霞が関の役人が
驚愕する人事である。
谷氏は豊中市の国有地売却に絡ん
で、昭恵夫人に財務省への口利き
を依頼した籠池氏との間に立って
、詳細な項目にわたって財務省の
国有財産管理担当官に問い合わせ
、返信の文書を受け取った。菅義
偉官房長官は国会で「職員個人の
行為だった」と答弁、昭恵夫人の
関与を否定したが、疑惑は晴れな
かった。谷氏が真実を話せば、安
倍内閣がすぐに吹っ飛んでいたか
もしれない。籠池氏の国会での証
人喚問以来、谷氏はずっと登庁し
ていなかった。出身官庁である経
産省の世耕弘成経産相は「森友学
園には関係ない」と人事との関連
性を否定しているが、「海外に高
飛びさせれば、都合の悪い証言を
する機会はなくなるはず」との思
惑が働いたのは隠しようがない。
絵を描いたのは、谷氏のかつての
上司で、今官邸で辣腕を振るう今
井尚哉首相秘書官らと見られてい
る。
大阪地検がやる気があれば、背任
罪の捜査は海外に及んでも支障は
ないはずである。特捜部は捜査員
をイタリアに派遣してでも谷氏に
重要参考人として事情聴取すべき
だろう。背任罪立件に向けての本
格捜査には、それが欠かせず、特
捜部の本気度を見るバロメーター
になる。もし仮に立件しなかった
としても、この国有地不当払い下
げは検察審査会にかけられ、不起
訴不当の判断が出て法廷で背任罪
が審理される。最終的には強制捜
査になる可能性も高い。今後谷氏
が良心に基づき、真実を述べる機
会はまだある。
谷氏の数年前のブログでは休日ま
で昭恵夫人の田植えボランティア
に付き合わせさせられることを嫌
がっていた記述があった。谷氏に
は「あなたは何のために国家公務
員になったのか」と問いかけたい
。けっして安倍夫妻の盾になるた
めの官僚人生を望んだわけでない
はずだ。イタリアで熟慮して、公
に奉仕する目覚めた姿を見せて欲
しい。そう願うのは、甘過ぎるだ
ろうか。
安倍晋三首相は支持率が下落後、
殊勝な姿を見せようと、夏休みは
あれほど好きだったゴルフをしな
いという。驕り高ぶった姿をひそ
め、自重しているようにみせかけ
ている。だが、言葉だけで反省の
言葉を並べても驕り、隠ぺい姿勢
は変わらない。防衛省の閉会中審
査でも稲田朋美前防衛相を出席さ
せず、こちらも日報問題のすべて
を知る統合幕僚監部参事官の小川
修子氏を在中国1等書記官に任命
した。いずれも「口封じ」のため
の人事とみられる。
どちらもメディアの扱いは小さ過
ぎる。政権は佐川宣寿国税庁長官
人事と同様、政権を守った人物を
破格の待遇でもてなし、霞が関の
官僚全体に見せつけているように
みえる。そこには公正さが尺度で
なく、安倍首相に近い人物だけが
厚遇される。「えこひいき」人事
が今まで以上にまかり通っている
のである。
安倍首相は2年前の訪米時、米国
議会で米国の政治ドラマ「ハウス
・オブ・カード」を熱心に見てい
るとスピーチした。ドラマは既に
シーズン5まで入ったが、全編自
身以外を敵とみなす策謀に満ち溢
れている。当時そんな理念もない
ドラマを日本の首相が見ているの
かと、米国の議員から失笑を買っ
た。
それ以後、安倍首相の精神構造を
自分なりに分析しようと、そのド
ラマを見てみた。だが、「いった
ん握った権力をどんな非道を行っ
ても守る」という倫理観に欠ける
専念す大統領夫妻の姿しか見えな
かった。為政者に求められる「公
正さ、正直、思いやり」は皆無で
期待外れだった。
これまで安倍首相から有権者の生
活寄り添う政治理念を聞いたこと
がない。もしかしたら、安倍夫妻
は夏休みの夜な夜なこのドラマを
見続け、ひたすら身を守るためだ
け権謀術数をめぐらす参考にして
いるのかも知れない。昨年夏に逝
った大橋巨泉氏が最後に言い残し
たこんな言葉を思い出し、ぞっと
した。
「安倍晋三の野望は恐ろしいもの
です」
【2017・8・17】