国有地値引きを財務省が主導して
いたことを示す衝撃的な音声デー
タをFNNが入手した。そんな中、も
はや「老害」をさらしているとしか言
えないような田原総一朗氏の振る
舞いが目立つ。内閣支持率急落で
政権崩壊の瀬戸際に立つ安倍晋
三首相に先週末「政治的生命をか
けた冒険をしないか」と提案したの
である。その中身を語らないことか
ら、「北朝鮮に飛んで日朝首脳会
談を」とか「大連立を」などを進言し
たと憶測を呼んでいる。政治家と
権力を監視する者との距離感を保
てないこの人物の面前で、かつて
「ジャーナリストではない」と指
摘したことがある。田原氏は激怒
するだけだったが、今もその時と
何ら変わらない。一見リベラルを
装いながら、裏で権力に寄り添う
ことを恥じない。非を認めようとし
ない政権に塩を送る様な人物は
早く退場してもらいたい。
週明けからテレビの情報番組をハ
シゴしている田原氏は「中身を言
ったら壊れちゃうから」ともった
いぶる。キャスターらが「ヒント
だけでも。北朝鮮のことか憲法改
正のことか」と促されても、「大
変なこと。安倍総理でなければで
きない」と内容を語らない。思わ
ず、テレビ画面に「言いたくない
ならテレビ出演するな」と文句を
投げかけてしまった。本人はスタ
ジオで注目を浴びるのがきっと心
地良いのだろう。
安倍政権は内閣支持率が26%まで
急落(毎日新聞)、不支持率はど
の調査もその2倍近くになって回
復の気配はない。その後、稲田防
衛相をかばい続けた挙句の辞任劇
で、さらなる低下は必至だ。政権
崩壊の瀬戸際で、森友・加計疑惑
はいずれも刑事事件に発展し始め
て、「国政を私物化した」疑いを
避けようもない安倍首相と昭恵夫
人の責任がより強く問われる局面
に入った。FNNの音声データもそ
れを裏付ける有力資料だ。与党は
内閣改造後、できるだけ臨時国会
を先送りして有権者の怒りを抑え
ようと画策しているようにみえる。
そんな時の田原氏の唐突な首相へ
の接近である。「うまくいかなけ
れば、表に出ないが、『こんなア
ドバイスをいただいて、やろうと
思ったけどできませんでした』と
安倍総理は絶対いわない」と持ち
上げている。ジーナリストは政治
家と一体となってはならないとい
う職業倫理も知らないようだ。
7年前、田原氏は一緒に出演した
東京でのラジオ番組の生放送中、
「蓮舫を政治家にしたのは自分だ
」と自慢し始めた。当時は民主党
政権で鳩山由紀夫首相との近い関
係も誇っていた。あまりに目が余
ったので「田原さん、あなたの職
業は何ですか」と問いかけた。田
原氏は不審そうに「ジャーナリス
トだよ」と答えたので「ジャーナ
リストは政治家と距離感を保つべ
きでは」と聞いた。そうすると、
田原氏は「君は何を言っているん
だ」と人差し指を自分に向け、激
怒した。あまりの激高ぶりで、番
組進行は混乱し、キャスターに迷
惑をかけてしまったことがある。
番組終了後にあいさつ、少し言い
過ぎた気もした。田原氏が悄然と
肩を落とし、スタジオを出る姿を
みて、「少しは分かってくれだろ
うか」と思い、後悔はなかった。
今回の田原氏の振る舞いで、その
政治家へのスタンスがまったく変
わらないことも分かった。
権力の近くにいることをずっと心
がけたのだろう。その後、安倍政
権になってからも「政権ご意見番
」と称された。2013年12月の
「週刊朝日」に「こんな自由な首
相夫人はいない」とのタイトルで
安倍昭恵夫人とのインタビュー記
事を書いた。冒頭の昭恵夫人との
ツーショット写真はその時の記事
に添えられた。昭恵夫人を最大限
持ち上げた「提灯記事」にしか見
えず、夫人を「何をしても許され
る」と思わせ、ますます増長させ
る素地を作ったのかもしれない。
それでも今なお恥ずかし気もなく
「ジャーナリスト」と名乗ってい
る姿は見苦しい。自分の記事だっ
たら、今穴に入りたい気分になっ
ていたはずだ。
「報道人はステージに上がらない
職業」
元共同通信編集主幹の原寿雄氏は
その著書「ジャーナリズムの可能
性」(岩波新書)で米国の報道界
のあるべき記者倫理をこう紹介し
ていた。それによると、ジャーナ
リズムの第一の役割を「権力監視
のウオッチ・ドッグ(番犬)」と
規定し、権力との結びつきを最大
の禁忌としている。米国に限らず
世界の報道人が心すべき規律であ
る。
田原氏には、改めて原氏が紹介し
ている米新聞界の重鎮の言葉を投
げかけたい。それは1970年代
、「(ニクソンによる)大統領の
陰謀」を暴いた調査報道を指揮し
たワシントンポスト紙のブッラド
リー編集主幹の記者への戒めであ
る。
「(記者は)歴史を作るのではな
く、歴史を報道するのである」
田原氏は自らの仕事を勘違いし、
歴史を作ろうとしているように見
える。この国では田原氏と同じよ
うに、権力と距離感を保てないな
いのに、ジャーナリストと名乗る
輩ががあまりに多すぎる。安倍首
相と頻繁に飲食を共にする。読売
新聞の渡邉恒雄主筆、田崎史郎時
事通信特別解説委員ら主要紙・放
送局の論説、解説委員らが同じよ
うに飲食やゴルフを重ねた安倍首
相と加計孝太郎理事長の癒着を満
足に批判できるはずもない。彼ら
が無批判に政権を擁護する言説を
並べるのは、番犬機能を忘れた読
者や視聴者への背信である。
世界の報道自由度ランキングが2
年続けて72位になったのは、政府
の規制・同調圧力ばかりでない。
報道人自ら使命を忘れ、自壊が進
んでいる表れと見るべきだろう。
政権の延命に手を貸すような今回
の田原氏の言動は、日々のニュー
ス報道を「ますます懐疑的に見な
ければ」と思わせる。
(写真は週刊朝日の2013年12
月29日号から、田原氏と昭恵夫
人)
【2017・8・2】
