「内閣府の方々、ちゃんとメモを
とっているじゃないですか」。加
計学園疑惑の中心にいながら文書
作りを否定し続ける内閣府の官僚
らは、自由党の山本太郎参院議員
の詰問に、一言も反論できなかっ
た。もはや安倍晋三首相の最側近
である萩生田光一官房副長官の関
与が動かし難くなっても、ひたす
らかばう官僚らの姿が憐れすぎて
、言葉も出ない。そんな時、適菜
収著「安倍でもわかる保守思想入
門」(KKベストセラーズ)を読
んで、改めて腐敗政治を招いた我
々自身の責任を深く思い知らされ
た。
ニイチェ研究の哲学者で作家の適
菜氏の舌鋒は鋭い。前書きでこう
述べる。
「安倍には政治や歴史に関する基
本的な素養がないが、そこを指摘
して溜飲を下げても仕方ない。あ
あいうものを担ぎ上げてしまった
われわれの社会こそが反省を迫ら
れているのだ。そういう意味にお
いて、安倍の最大の功績は、日本
の病を完全にあぶり出したことだ
ろう」
先の国会で森友・加計疑惑から逃
げながら共謀罪を成立させるとい
う暴走をしながら、まだ40%近い
内閣支持率を保っている現状は、
歯がゆいが、保守層の支持者がま
だ見捨てていないことを、冷静に
分析しなければならない。
それでも、国会審議を振り返って
みれば、さすがに自民党支持者も
危うさを感じつつあるようだ。適
菜氏は、その人らに問いかけ、「
安倍政治」があまりに従来の保守
政治とかけ離れたものであること
を分かりやすい言葉で説明する。
「保守とは何か?。大事なものを
『保ち守る』ということです。そ
の基盤となるものは、常識です。
常識は伝統によって生成されます
。……保守は『常識はずれ』なこ
とが発生したら、常識を『保ち守
ろう』とします。だから、常識の
ない人は『保守』ではないんです
ね」
「保守は権力を警戒します。権力
の集中が地獄を生み出したことを
歴史に学ぶからです。そもそも保
守主義は権力に対する恐怖から生
まれたようなものです。そして保
守思想は、権力をいかに縛るかと
いう思考の下、深化してきた」
従来の「保守」の概念を歴史的経
緯を通して、大きく変えてくれる
。今、わきあがる世論の怒りと疑
惑解明の声をバックに野党4党が
臨時国会開会や閉会中審査を申立
てても門前払いするのは、「安倍
政治」の必然の振る舞いかもしれ
ない。
適菜氏は安倍首相がかつてテレビ
番組で「有権者は議会も非生産的
だと思っている。衆院と参院を一
緒に一院制にすべきだ」と述べた
ことを紹介、判断のできない「幼
児」が政治をおもちゃのように振
り回す、と喝破する。
そんな「安倍支配」が浸透する霞
が関の中で、わずかに文科省の職
員だけが、「加計ありき」の圧力
を文書で残し意地を示した。そん
な萩生田官房副長官らの関与を色
濃く示す文書は、前川喜平前文科
事務次官ら幹部の信頼の厚い女性
の課長補佐が作成していたのであ
る。それを入手したNHKの社会
部も局内の逆風の中、「クローズ
アップ現代」を通してスクープを
放った。圧政にくじけぬ人たちの
リレーが、まだ救いを感じさせて
くれる。「常識」がかろうじて守
られた格好だ。
それに引きかえ、官僚らの綱紀の
乱れはとどまるところを知らない
。森友学園疑惑での財務省、国土
交通省、加計疑惑の内閣府職員ら
の度を越した政府擁護答弁の数々
。あなた方は何のためにキャリア
官僚を志望したのか。公僕意識は
どこに行ったのか。きつく問いか
けたくなった場面がどれほど多か
ったか。
適菜氏は「わが国では知的荒廃の
結果、権力に追従するのが保守と
いうことになっている」と述べて
おり、「安倍政治」を支えるこん
な官僚らは自ら思考することを放
棄し、判断力を失った「知的荒廃
集団」に見えてきた。
メディアから逃げ隠れするその分
だけ、有権者の反発が増幅する萩
生田官房副長官、加計孝太郎氏ら
疑惑の中心人物。安倍政権はもう
加計疑惑をかわしきれない。有権
者の怒りは東京都議選の結果に表
れるだろう。「常識を失った」政
権運営に愛想尽かしつつある本来
の保守支持層が増え始めている気
配も感じる。二つが重なると、政
権の転落はその先に待っている。
【2017・6・24】