「共謀罪」の看板替えだ | 平野幸夫のブログ

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ギリシャ語を語源とする「クロニクル」という
言葉があります。年代記、編年史とも訳されま
す。2014年からの独自の編年記として綴りま
す。


牙をむいて国民主権に襲いかかろ
うとしているシーンが見えてくる。

政府が通常国会で提出する新設
の「テロ等準備罪」である。過去3

も国会に提出された「共謀罪」は

論の反発で廃案になったが、今

回は看板を変えて焼き直し「組織
的犯罪集団」に対象を限定してい
る。しかし、捜査当局の解釈によ
っては、政府批判やデモを計画す
る市民団体にも事前に適用されか
ねない。戦前の治安維持法による
市民の予備拘束や検挙も同じよう
に可能になる危険極まりない法律
である。それなのに、あまりに関
心が低すぎる。



政府が今回、この法案を提出する
大義名分として東京五輪などへの
テロ対策強化をうたっているが、
対象となる犯罪は殺人、密輸など
676にものぼり、当初目指した
「共謀罪」と中身はほとんど変わ
らない。「テロ」という言葉を新
たに付けただけで、戦争につなが
る安保法案を政府が「平和安全法
案」と名付けたと同じように、欺
瞞的な「看板替え」である。


日本の刑法は一定の重大犯罪につ
いて、予備罪や準備罪で罰するこ
とができるが、一般的な犯罪は計
画段階や未遂の段階で処罰されな
い。今回の新法案は二人以上が話
し合って合意するだけで犯罪が成
立するとされている。合意の定義
の仕方によっては、広い解釈によ
って、テロと直接関係なくても予
備拘束が可能になる。警備・治安
当局の権限を飛躍的に増大させ、
人権侵害や冤罪を生む恐れがある
。民主的な市民団体への監視、圧
力も強まる。様々多様な政治的意
見さえ述べることさえ、委縮させ
、やがては民主主義国家の根幹を
揺るがしかねない。だからこそ、
世論や野党の強い反対によって、
これまで3度も国会で成立できな
かったのである。



安倍政権は2000年に国連総会
で採択された「国際組織犯罪防止
条約」を法律制定を急ぐ根拠にし
ているが、この条約はその国の法
体系になじまない場合は「各国が
国内法の基本原則に従って実施す
る」としており、あくまで国内法
に抵触しないことが前提になって
いる。



「五輪のため」「テロとの戦い」
など一見反対しにくい言葉の前で
、立ち止まってはならない。こん
なスローガンの前に、誰もが思考
停止に陥りがちだが、内実をよく
見れば、自分たちの生活に悪影響
を及ぼすことが分かるはずだ。



最大野党の民進党の蓮舫代表は昨
日、NHKの討論番組で「相当大
きな懸念がある」と発言したもの
の法案の賛否については明らかに
せず、及び腰姿勢を感じさせた。
つくづくどちらを向いているのか
不信感を呼び起こす党である。


2003年から3年連続で廃案に
なった当時は、まだ国会が国民主
権を第一に審議するという機能が
働いていたことが分かる。10年以
上棚ざらしにされてカビの生えた
ような法律がまるで幽霊のように
現れたのは、「安倍一強」の国会
勢力図と安倍首相が持つ戦前回帰
型の国家像が背景にある。野党の
体たらくが、それを許している。


メディアもトランプ米国次期大統
領の危うさばかりに目を向けがち
だが、同じナショナリズムを高揚
させる点では同じ体質を持つ安倍
首相の言動については、危機意識
が足りなさすぎる。政府が「テロ
等準備罪」と名付けても、本質が
変わらないのなら「共謀罪」とし
て伝え、より詳細な内容を国民に
知らせる義務があるはずだ。


  【2017・1・9】