参議院選挙からわずか3カ月もた
たないのに、公明党がまた選挙民
への背信行為を重ねようとしてい
る。これまで国会審議に応じてい
なかったカジノ法案(総合型リゾ
ート(IR)整備推進法案)の審
議容認に転じた。治安や教育上の
リスクを考えて、政策転換をした
気配はうかがえない。安保法案と
同じように、本意でなくても、与
党のままでいたいため、どこまで
踏みつけられても自民党について
いく「ゲタの雪政党」の真骨頂で
はないか。
先週末、井上義久公明党幹事長は
「議員立法は審議するのが基本だ
」と、自民党が昨年の国会で提出
しながらも審議を見送った同法案
の審議に応じる理由を述べた。こ
れまで「ギャンブル依存症を誘発
する懸念が強い」としていた公明
党の見事な豹変ぶりである。井上
幹事長は「国民の理解を得る手続
きが必要」とも述べた。
同じような真逆の政策転換の釈明
は安保法案の時も聞かれた。いわ
く「国民の理解を深めることが重
要」。そう言いながら、安保法案
の正当性を認めた有権者が増えた
とは思えず、理解を広めるため努
力を重ねた様子は見えなかった。
それどころか「安保法案で抑止力
が高まる」と言っていたのが、そ
の後の状況はそれが、虚偽だった
ことが明確になってきている。尖
閣諸島海域への中国船の相次ぐ了
解侵入、北朝鮮の核・ミサイルを
つかった恫喝……。これらはいず
れも安保法案成立時からより強ま
っている。「力には力を」の外交
・防衛がまったく効果を発揮しな
い表れである。違憲の安保法案に
恥じ入るべき状況なのである。
カジノ法案は国や自治体がバクチ
場の胴元になる危惧がぬぐえない
。治安悪化、教育上の悪影響を軽
視したカジノ法案は国の屋台骨を
揺るがしかねない法案でもある。
経済的効果ばかりに目を奪われて
、「働かなくても、一瞬にして金
持ちになれる」と思わせ、倫理感
を喪失させるような政策は亡国に
つながる。
ルーレットやスロットマシンなど
カジノの賭博性の高い機械を備え
た施設はそもそも刑法や風営法で
禁じられているはずだ。競馬・競
輪などは自治体、馬産地振興など
を目的とした特別立法上の根拠が
あり、カジノとは社会全体に与え
るリスクが格段と違う。
この国のパチンコなどのギャンブ
ル依存症は約200万人いるとい
う数字もあり自分の身近にも、パ
チンコ依存症の人を3人以上挙げ
ることができる。別の数字では既
に500万人いるともされる。こ
んなにギャンブル依存症の人があ
ふれる国は世界で知らない。
米国・ラスベガス、中国・マカオ
など表面的な繁栄だけをみていて
も全貌は分からない。最近はマカ
オ、シンガポール、韓国ソウルな
ど倒産したカジノが相次ぎ、街が
荒廃したという報告もよく聞く。
あのラスベガスでも、マフィア追
放の長い歴史があるのに、健全化
のための市民の苦闘の経過はほと
んど知られていない。
賭け事は人間の本性であることを
否定はしない。かつて沢木耕太郎
著「深夜特急」の舞台となったマ
カオのリスボニアホテルや北米の
カジノで、自分も何度か遊んだ経
験がある。それでも、華やかな光
景の半面、瞬時にして大金を失う
場面も目撃し、その怖さも痛感し
た。
そんな人生を暗転させるギャンブ
ルの「毒性」を十分議論もせず、
カジノ観光を奨励して、国が栄え
ると幻想をふりまくようなことを
、血税を使って国がしてはならな
い。自治体も同じだ。「公益とは
何か」という視点を大事にして、
ひたいに汗して正当な報酬を得た
国民が喜ぶことを目指すのが国の
務めであるはずだ。公明党の支持
者には同じような考えで、今回の
審議容認に納得できない人もきっ
と多いはずだ。
【2016・10・9】