「敗れし者」が残した輝き | 平野幸夫のブログ

平野幸夫のブログ

ギリシャ語を語源とする「クロニクル」という
言葉があります。年代記、編年史とも訳されま
す。2014年からの独自の編年記として綴りま
す。


「更け行く秋の夜 旅の空の わ
びしき思いに 一人悩む

恋しや故郷 懐かし父母

夢路にたどるは 故郷(さと)の
家路……」


ラジオから流れてきた唱歌を、い
つの間にか一緒に口ずさんでいた
。この季節になると、よくこの歌
を作詞した明治時代の作詞家、犬
童球渓(いんどう・きゅうけい)
の生涯を思う。歌の流れた日はち
ょうど安保関連法の成立から1年
にあたり、国会前に集まり「廃止
」を訴え続けた参加者の心情にも
詩の意味を重ねた▼時代は違って
も両者に共通するのは「敗れし者
の輝き」である。犬童は兵庫県の
旧制柏原中学の音楽教師時代、日
露戦争後の国威高揚気分が高まり
、教室で生徒に「音楽など軟弱だ
」と非難され続けた。失意のうち
に同校を去った後、新潟高等女学

校に赴任し、故郷の熊本・人吉の
父母を思いながら、そんな時代の
軍国的風潮で傷ついた心情をつづ
たのが「旅愁」だった。この歌は
その後、米国のオードウェイの原
曲以上に、よく知られるようにな
った▼成立1年が過ぎても、全国
400カ所で安保関連法廃止を訴
える集会が開かれたのは、人の生
活の根底を脅かす時代の変化への
強い拒否反応が根強いからだろう
。犬童を鞭打った当時のような軍
国的風潮が今高まっているような
気がしてならない。それでも、時
代を超えて歌い継がれる「旅愁」
を残した犬童と同じように、次世
代の人々はきっと、戦争ができる
国に変えた安保関連法廃止を訴え
る人々を正当に評価するだろう。
悲しみが深ければ、それだけ、人
々をつらい心情に陥れる理不尽さ
に思いが向かう。「旅愁」の2番
の詩もそんな気持ちを表している


「窓打つ嵐に 夢も破れ 遥(は
る)けき彼方に 心迷う

恋しや故郷 懐かし父母

思い浮かぶは杜の梢……」


   【2016・9・20】