関西財界トップからまた原発再稼
働について「駄々っ子発言」が飛
び出した。「原発訴訟は特定裁判
所で」と求めた森詳介・関西経済
連合会会長(関西電力相談役)の
会見発言である。今春には角和夫
・同副会長(阪急電鉄会長)が大
津地裁の高浜原発の運転差し止め
決定について「なぜ一地裁の裁判
官によって国のエネルギー政策に
支障をきたすことが起こるのか」
と述べ、強い批判を受けたばかり
である。いずれも中学生でも知っ
ている三権分立の精神をも否定す
る暴言である。「自分たちだけが
正しい」と主張するだけの稚拙な
思考をぶりを改めない財界幹部に
、「モラル無き企業はいずれ滅ぶ
」という経済界の警句を投げかけ
たい。
森会長の発言は大津地裁が先週異
議審で、関電高浜原発3、4号機
の運転を認めない決定をしたこと
を受けて述べられた。主な趣旨は
「(原発など)特定の専門知識を
要する領域について、特定の裁判
所で判断する方法がある」と知的
財産訴訟の審理形式を意識した法
整備を求めた。
森会長は「司法リスクをできるだ
け小さくする必要がある」とまで
訴えた。そこには「地方の一裁判
所などに原発の可否を裁く資格な
どない」というおごりきった底意
が見える。刑事、民事を問わず係
争事案に公正な司法判断を目指し
て審理を尽くしている裁判全体を
冒涜する主張であろう。
まるで相撲の土俵の上で負けた子
供が、別の土俵に誘い「もう一本
」と求めているようにも映り、見
苦しい。まともな企業人なら「な
ぜ敗訴したのか」と自問し、新た
な根拠を見つけ法廷で主張するこ
とではないのか。異議審でも自分
たちの主張が認められなかったの
は、主張内容が薄弱だったという
ことである。
特に「一地裁」という言葉を使っ
た角和夫発言には、地方裁判所の
裁判官を見下したようなおごりを
強く感じたが、今回の会見でも「
急迫の危険がある段階ではなく、
被害が出た段階にのみ仮処分を認
める」という踏み込んだ案まで示
した。
これは前回以上に看過できない発
言である。原発事故の「被害が出
た段階」という意味をまったく理
解していない。事故で住民の命と
安全が損なわれたかもしれないと
いう想像もせず、痛みも感じ取れ
てもいない。それまで運転を認め
ろというのは、経営者以前に大事
な人の命を軽んじるような精神の
欠落ぶりをうかがわせる。
春の角発言以来、こんな人物をト
ップに抱く阪急電鉄という会社そ
のものに、ずっと強い不信感を覚
えていた。それを上回るような今
回の暴言をメディアは批判もせず
、紹介するだけだった。住民や消
費者の不安をくみ取れない企業人
に経営者の資格などない。怒りを
覚え仕方ない。もう阪急電車にさ
え乗りたくない気持ちまで募る。
名門とされる阪急電鉄にまともな
企業精神を持った経営幹部はもう
いないのだろうか。
原発再稼働については、鹿児島県
の知事選で川内原発再稼働運転停
止を訴えた三反園訓氏が当選し、
来月中にも九州電力に運転停止を
求める方針だ。住民の避難計画も
見直すという。住民自らが原発再
稼働をめぐる潮流を変えた形であ
る。
一方、司法判断で二度も「ノー」
と言い渡されても、なおひたすら
再稼働ばかりを追い求める関電と
関西財界人。鹿児島との彼我の差
に暗然とする。
【2016・7・22】