「憲法骨抜き」に拍車 | 平野幸夫のブログ

平野幸夫のブログ

ギリシャ語を語源とする「クロニクル」という
言葉があります。年代記、編年史とも訳されま
す。2014年からの独自の編年記として綴りま
す。


「この国はもう引き返せないとこ
ろまで危うい道を突っ走った」。
ため息ばかり出て、落ち込んだ気
分がなかなか戻らない。事前の予
想通り、参議院選挙は改憲4党の
議席が三分の一を超えた。投票日
直前から自民・公明党から憲法の
精神をを骨抜きにする緊急事態条
項の新設や自衛隊の正当防衛範囲
の拡大解釈の中身が具体的に語ら
れ始めていた。楽勝予想に気が緩
んだのか、相次いで自民・公明党
幹部が発言し、「衣の下の鎧」を
見せていたのを、どれだけの人が
理解して投票したのか。選挙結果
から基本的人権を制限し、米国と
の「血の同盟」の強化に拍車がか
かるのが想像できる。国の将来を
危うくする結果を招いた野党とメ
ディアの罪はは計り知れないほど
だ。



今回の選挙の投開票日が5日後に
迫った5日、高村正彦自民党副総
裁はBSフジで「改憲勢力が(3
分の2)を取っても、10年、何年
先か別だが、憲法9条が改正され
る可能性はゼロだ」と述べた。改
憲の是非を争点にしたくないため
の発言とみられ、その底意を推察
する必要があった。


なぜなら、自民党の改憲草案には
「9条の削除」をうたい、「国防
軍」を保持すると規定している。
改憲の発議ができる勢力を確保す
れば、党是であるこの草案を実現
させるのは自明の理であるからだ
。しかし、いきなりの9条改正は
反対が多いため、最近、自民党幹
部から「最初の改憲は、大災害時
などに緊急事態を宣言し、国会議
員の任期延長をすることから」と
いう発言が出始めていた。これに
符合し、公明党の北側一雄副代表
も「任期の特例は議論すべきだ」
と応じていた。


安倍首相も昨夜の選挙速報番組で
「憲法9条をどうするのか」と聞
かれ、「まず、国会の憲法調査会
で論議すべき」とかわした。それ
でも自民党の改憲草案に言及、与
党トップとして改憲を目指す意図
を隠さなかった。


政権与党がまず大災害時や武力攻
撃を受けた時の緊急事態条項を設
置に動くのは確実だろう。その道
筋を付けた後、待っているのは、
言論や集会、結社の自由などの制
限し、反対勢力の批判を封じる条
項の新設とみられる。衆参両院で
改憲勢力が三分の二を超えてしま
った今、もはやこの動きを止める
ことは難しい。そうなれば、事実
上の憲法改定が成ってしまうと考
えておくべきである。本来の条文
による改憲は、その後にゆっくり
着手すればいいと、考えているフ
シがうかがえる。


今回の野党大敗の責任は、特に民
進党幹部の戦略のなさによること
が大きい。一人区は野党共同候補
が健闘したという評価も出ている
が、甘すぎる。三分の一の当選な
ら失敗だろう。安保法制破棄で共
同歩調をとれるはずの市民団体「
国民の怒りの声」による統一候補
名簿作りの呼びかけを断ったのは
失敗だった。岡田執行部は総退陣
すべき大敗である。市民の権利擁
護を前面に打ち出し、女性代表を
トップに据えるような清新さも求
められる。掲げるべきスローガン
は「社会の階層化ストップ」でも
よい。内実が変わった印象を有権
者に与えることがとが出来なけれ
ば、じり貧で消滅しまってもおか
しくない。


この党をダメにしているのは、原
発再稼働に賛成する電機連合など
連合を中心母体にしていることだ
。既得権益の打破を叫びながら、
労組など自らの権益維持に汲々と
する矛盾を有権者は見透かしてい
るのである。


共産党の失策も見過ごせない。藤
野保史政策委員長がテレビ番組で
防衛費について「人を殺すための
予算」と話し、辞任に追い込まれ
た。あまりにも稚拙な発言であり
、市民政党として脱皮できていな
い現状を見せつけた。自公両党に
格好な攻撃材料を与えてしまい、
大量に票が逃げたのは確実だ。猛
省すべきだ。野党共同候補擁立の
判断は評価できるが、教条主義的
な党のイメージを払しょくして、
地に着いた市民政党として成熟し
なければ、この党にも期待は広が
らない。


一方、今回メディアの劣化ぶりは
目を覆うばかりであった。特にテ
レビ各局は選挙期間中、討論でよ
く見境なくキレる安倍首相が嫌が
っているのか、政権の思惑を忖度
し、ろくに討論番組を流さなかっ
た。参院選中なのに、東京知事選
の候補者選びばかりに時間をさき
、視聴者を錯覚させてしまった。


テレビ各局の投票日当夜の速報番
組もお粗末だった。まるで政治シ
ョーのような演出ばかりが目立っ
た。全局、小泉進次郎の選挙ルポ
を過剰なまでに扱っていた。中年
女性がキャーキャーと小泉氏を取
り囲む映像がどれだけ流されたこ
とだろうか。その安易さと何の実績

もない議員を英雄扱いしてしまう無

自覚ぶりに怒りが増す。



選挙報道で最重要であるべき論点
の明示と独自の分析を怠っていた
責任は見逃し難い。まともなジャ
ーナリストなら誰でもする質問を
するだけの池上彰氏をまるでスタ
ー扱いしていたのも一例だ。どの
番組も、中身は真摯に国の行く末
を論じ、危うさを指摘する内容で
なかった。


ローカル各局はさらにお粗末だっ
た。お笑い芸人や政権支持派で批

判を受けたような学者らをスタジ
オに並べた。ある局はコメントを
求める必要のないような上西小百
合衆議院議員まで東京スタジオに
呼んでいた。キャスターが選挙に
関係ない質問をして、キレかかっ
た上西議員と言い合いになる場面
を延々と流したのにあきれ返った
。言葉を失うほどの番組制作の退
廃ぶりである。


活字メディアも両論併記ばかりの
論説が目立った。古巣の毎日新聞
の新主筆は「あの草案(自民党の
改憲草案)には、自由や平等への
敬意がない。憲法に内在する普遍
的価値を冷笑するなら、そもそも
憲法を論じる資格はない」と述べ
ながら、「野党も護憲一本やりの
かたくなさを捨て、率直に憲法の
是非を語る時だ」と注文していた
。護憲の姿勢を疑わすような、腰
が引けた言説は毒にも薬にもなら
ない。


今回、新選挙民になった18歳以上
の若い世代への出口調査で政権与
党への支持が中高年世代より高か
ったという分析にまた暗然とさせ
られた。次世代の人には自ら思考
し、納得できないことには「ノー
」と言い続けることが大事と呼び
かけたい。信じられないものに頼
らず、少なくても同じ意見には連
帯を強めていってほしい。


    【2016・7・11】