逃げて、語らず、隠す選挙 | 平野幸夫のブログ

平野幸夫のブログ

ギリシャ語を語源とする「クロニクル」という
言葉があります。年代記、編年史とも訳されま
す。2014年からの独自の編年記として綴りま
す。

参議院選挙の投開票が5日後に迫
ったが、まったく盛り上がりに欠
ける。このままでは過去最低の投
票率44・52%近くまで落ち込むと
危惧する声すら聞こえる。国政選
挙がこれほど盛り上がりに欠ける
のは、重要な争点が真正面から語
られないせいである。テレビの党
首討論から逃げ、集団的自衛権の
拡大解釈や改憲の中身を語らず、
5兆円を超えたとされる株式市場
での年金基金損失のデータを隠す
政権与党の姿勢が論戦を盛り上げ
なくさせている最大の原因である
。国政選挙を忘れたかのように、
連日、東京都知事選挙の候補者選
びばかりに時間をさくメディアも
政権の思惑通りだろう。有権者が
歴史の転換点で道を誤らないため

果たすべき責務は今、自ら関心の
あるテーマを正直に語る候補であ
るかどうかを見極めて、投票所に
足を運ぶことではないだろうか。



この選挙で最も問われるべきは、
戦争を放棄して、一人も戦争で死
なせなかったくびきとなった憲法
を政権の都合で勝手に拡大解釈し
、集団的自衛権による海外での戦
争を可能にした点だろう。強行採
決時の国会を取り囲んだ人々は、
法律施行後、運用の中身の説明

避けて続けている政権に再び

「ノー」と言える機会でもある。



既に自衛隊内部では選挙後をめど
に、アフリカ南スーダンへの派兵
増強準備が進んでいる。新聞社の
選挙ルポ記事では、千歳の自衛隊
基地周辺などから、身内の自衛隊
員の安全を気遣う声が多く伝えら
れる。先の通常国会では法律運用
のスケジュールは何も示されなか
った。このままではある日突然、
派兵決定という事態を迎える恐れ
があるが、選挙でお墨付きを与え
てしまえば、それを止める手段は
もうなくなってしまう。



バングラデシュのダッカで日本人
7人が犠牲になる悲しい事件が起
きた。親日国で援助活動をしてい
る日本人がなぜ狙われたのか。予

兆はあった。昨年秋、北部でも日
本人男性が犠牲になった。この時
「イスラム国と戦う有志連合の一
員であった日本の国民を狙った」
と犯行声明が出された。今回犠牲
者はテロリストに「自分は日本人
だ」と叫んでいたというが、まっ
たく聞き入れなかった。多くのイ
スラムの専門家は、安倍首相が昨
年初め、エジプトで「イスラム国
と戦う国に資金援助する」と演説
したことが転機になったと指摘す
る。日本はアメリカと一緒に戦争
をする国と認識されてしまったの
である。不用意な言葉で敵を作っ
た結末ではないのか。今回の犠牲
は安倍首相が導火線をひいたとい
う見方もできる。安倍首相は昨年
、国連の安保常任理事国選びの票
欲しさに、強権的とされるバング
ラデシュの現政権に法外な資金援
助をした。国民の税金を自分のポ
ケットマネーのように使う露骨な
票獲得が問題と指摘されたことが
ある。当地の現政権に反感を持つ
テロリストの怒りをさらに募らせた

のではないか、という視点での検

証も大事だ。



安倍首相の米国との同盟強化はほ
かにも負の連鎖を招く恐れがある
。自民党の改憲草案にある国防軍
について、選挙戦の争点にしたく
ないのか、首相は口をつぐんでい

る。「国会の憲法調査会で議論す
ればいい」というだけである。昨
年春、その憲法調査会で「集団的
自衛権の拡大解釈は違憲である」
と憲法学者が口をそろえたのに、
これを無視したのは誰か。にわか
に手順を踏むような姿勢を見せて
も、すぐに信じることができない
のは、過去の言動から明らかであ
る。



これまでのテレビ党首討論では、
野党からこの点を突かれ、改憲の
中身を語って欲しいと求められた
のに投票日直前の党首討論まで断
った安倍首相は、最後まで逃げま
くっているように見える。毎日、
朝日両紙は「なし崩し的に改憲に
向かうことになりはしないか、恐
れる」「争点隠しの意図があるな
ら不誠実」と批判したのは当然だ

ろう。与党寄りの読売、産経両紙
でさえ、珍しく疑問をあからさま
に示し「なぜ改正すべきかきちん
と説明するのが筋だ」などと不満
を述べる始末だ。


こんな逃げて、語らないこと以上
に見逃せないのは、年金基金の損

失データを隠して居直っているこ
とである。「精査するため」と辞
めたどこかの知事が、ごまかすた
めに使った言葉で釈明する。国民
の大事な年金を了解も得ず、株式
の投入比率を格段に高めてぶち込
んだしまった末、5兆円を超える
大穴をあけてしまった。与党は「
既に30兆円以上のプラスが出てお
り、直近で損失が出ても年金支給
額が減額されることはない」と言
い訳をする。しかし、この言葉に
何の保証もない。これまでにない
短期間の大損失を選挙の後まで知
られないように隠ぺいしようとし
ても、既に運用するGPIFのメ
ンバーから数字が漏れ伝わってき
ている。意図的なデータ隠しはあ
ってはならない。37歳のサラリー
マンでは月27・4万円だった予定

支給額が10年後には17・8万円に
激減してしまう試算まで伝えられ
る。



こんな姑息な隠ぺいがアベノミク
スの是非の判断に致命的影響を与
えることは必至である。もしかし

たら有権者が最も、怒りを募らせ
る政策判断になるかもしれない。



改めてダッカの事件は、無私の精
神で共生に尽くした最も善良な日
本人が無残にも殺されてしまった
国柄の変化を何がもたらしたのか
を考えさせる。今回の選挙で問わ
れるものは何かを問われて、近現
代史の著作が多い作家の半藤一

利さんの今朝の毎日1面の言葉が

示唆深い。


「憲法の豊かな含意が忘れられ、
薄っぺらな言葉だけがむなしく飛
び交う最近の風潮を憂慮している
……今回の参院選は歴史の分水

嶺になるかもしれない。この(憲法
)空洞化を何としても阻止したい
と思う」


   【2016・7・5】