「性懲りもなく、こんな時にまた宴
会とは」。地に落ちた記者モラルを
思わせたのが、主要メディアの記者
が24日、高級和食店で安倍晋三首
相を囲んで開いた宴会である。権力
の誤りをただす自らの使命を忘れて
、擦り寄る姿と見られていることに、
気づかないのか知らないふりをし
ているのか。何とあさましいことだろ
う。安保法制関連法案の国会審議
幅広い層による反対で政権の思惑
通り進まなくなった。この時期に批
判すべき最高権力者と飲食を共に
するのは、闘うべき相手に塩を送る
行為に等しい。
いつもの首相お気に入りの顔ぶれ
だった。朝日のS編集委員、毎日の
Y特別編集委員ら主要4紙とNHK
のS解説副委員長、時事通信のT解
説委員らで2時間半、美食を共にし
た。しかし、オフレコが前提の会食
で、その中身が明らかにされること
はない。
ただ彼らが何を語ったか、容易に
想像がつく。それは日頃から安倍首
相の主張に理解を示す言説を紙面
上や画面上で展開しているからであ
る。
一例を挙げると、毎日のY委員は
先日のコラムで、安保保障論戦を「
過激な批判と過剰防衛」と批判しな
がら、「今、安倍首相が、国民をだ
まして世界征服に乗り出したとは思
わない。安保法制を操って戦争を始
めるとは思わない」とし、「政権が
軍事国家を目指しているという断定
は不当な極論である」と政権を擁護
した。
かつての戦争協力への深い反省か
ら、戦後一貫してリベラルな論調を
貫いてきた古巣の新聞社の後輩記
者がこんなに露骨に「御用記者」ぶり
を臆面もなくさらすことや時代風潮
に言葉を失うほどだ。
反論すれば、そもそも、今回の安
保法制への国民の疑念と反発は憲
法で禁じた海外での武力行使を可能
にする危険性を強くはらんでいるか
らである。反対する人に「安倍首相
が世界征服に乗り出した」と思う人
などいるはずがない。それこそ、そ
んな極論をわざわざ前提にするの
は、正当な民意をおとしめる物言い
である。誰もが考えない、前提で持
論を展開するのは卑怯であろう。
安倍首相のお気に入りか、Y委員は
戦後70年談話懇談会の委員にメデ
ィア代表に選ばれている。それゆえ
、世の反発も読めずに、安倍首相を
擁護する論調のコラムしか書けない
のであろう。「公権力と常に距離感
を保つ」という記者倫理を忘れた言
説は読者への背信行為であること
に気づくべきである。
このほか、テレビでよく見る時事
通信のT委員や朝日のS委員の意
見やコラムは微妙に政権に擦り寄
って論じるじることがしばしばであ
る。視聴者や読者には、今こそメデ
ィアリテラー(メディア検証能力)を
高めることが必要である。
戦前、朝日や毎日は旧陸海軍と一
体となって戦争気分をあおってきた。
作家、半藤一利氏は名著「昭和史」
の中で、毎日の社内で「毎日新聞
後援・関東軍主催・満州戦争」と自
嘲した社員がいて戦争への協力が
当たり前になっていたことを紹介し
ている。さらに作家、永井荷風の日
記を引用しながら、新聞社の戦争
への協力ぶりも描いている。
「同社(朝日新聞社)は陸軍部内
の有力者を星ヶ丘の旗亭に招飲して
謝罪をなし、出征慰問義捐金として
金拾万円を寄附し、翌日より記事を
一変して軍閥謳歌を成すに至りし事
ありし」
謝罪というのは満州事変に批
判的だったのを詫びたことを指す。
歴史が繰り返されている気がして
ならない。御用記者らの頭の中には
もはや記者が貫くべき「反権力」と
いう言葉が消え去っているのだろう
。首相を囲んで心地よく懇談する彼
らの姿が、目に浮かぶようで悲しく
なる。
【2015・6・25】