近現代史をよく知らない若者がなぜ
政治に正しい審判を下すことができる
のか。今国会で、20歳以上の選挙権を
18歳に引き下げる公選法改正案が成立
する見通しになって、そんな疑念が高
まった。来年の参議院選挙は、現政権
が憲法改正を真正面から問う選挙にな
りそうで、この改正はそのための布石
と見るべきだろう。十分な近代史教育
を受けていない新有権者らが正しい判
断を下せるのだろうか。中韓を敵対視
する風潮が強まる中、また戦争への道
を開く愚を繰り返さないため、今成す
べきことは過去の歴史に向き合う教育
を進めることでないのか。
今年は戦後70年にあたり、国の内外
で、戦争の災禍を後の世代も共有すべ
き機会になる。戦後生まれの自分は、
戦争体験のない世代だが、親兄弟、親
戚から身内を戦争で失った悲しみや心
の傷跡を語られてきた。「二度と戦争
だけはしてはならない」という思いを
大事にしてきた。記者になって特に思
い出すのは、戦後半世紀の1面企画記
事の取材チームの一人となって、戦地
になって中国各地を訪れた1995年
夏である。
それ以前に取材した南京、上海に続
き、大連、瀋陽、長春などを訪れ、侵
略された国の歴史がいかに悲惨だった
かを改めて知った。
広く知られていないが、旧満州国や
内蒙古で、日本はケシ畑まで大規模栽
培、そこで産出するヘロインの売却代
まで満州国の国家財政に組み込んでい
た。国土だけでなく民衆の心や体を国
ぐるみで収奪したという当時現地で警
察官をしていた日本人の証言を聞いた
。そのケシ畑の写真を見せてもらい、
愕然とした記憶が今も鮮明に残る。黒
竜江省では731細菌部隊が中国人に
人体実験を繰り返していた膨大な資料
や痕跡が残されている。おぞましいが
、直視しなければならない戦争の実相
に打ちのめされる思いが続く長期取材
だった。
こうした歴史の暗部は東京裁判でも
戦争指導者らへの被疑事実になって裁
かれているが、自分がそんな恥辱の地
に立って考えると、不戦の誓いはより
募ったのである。しかし、日本の戦後
歴史教育はこうした侵略による加害の
歴史を教えることに後ろ向きだった。
若い人と現代史や政治について話す
と、あまりにも無知と感じることが多
い。よく質問されるのは「戦争の謝罪
や賠償はもう済ましているはず。われ
われの世代まで戦争責任を問われるの
はおかしい」という声だ。自分たちが
戦争をしたわけではないと言いたい心
情は理解できないわけではないが、侵
略の被害を受けた国の民が何世代経っ
てもその被害を語り継ぎ、何世代も忘
れないことを知っておくべきだろう。
先日亡くなったドイツのヴァイツゼ
ッカー元大統領の言葉が重く響く。
「過去に目を閉ざす者は、未来に対
してもやはり盲目になる」
若者だけでなく、今回の公選法改正
に賛成している民主党や維新など野党
の議員にもかみしめてほしい。
【2015・2・19】