これほどあからさまに政権が選挙報
道に介入したことがあっただろうか。
自民党が在京民放テレビ局に選挙報道
の公平中立を求める要望書を送付した
ことである。街の声の紹介の仕方や番
組構成に注文を付けた。まるでテレビ
局が偏向報道をしているような前提で
の申し入れで、在京各局は報道への政
治介入に毅然と立ち向かうべきではな
いか。
「人はパンのみにて生きるにあらず
」。新約聖書の一節が頭をよぎる。安
倍政権の狙い通り、今回の総選挙の争
点はアベノミクスの是非ばかりがクロ
ーズアップされ、ほかの大事な集団的
自衛権の行使や原発再稼働などへの関
心は高まっていない。
それでも、有権者の判断は冷静な部
分も見受けられ、ほとんどの世論調査
や街の声では「景気回復を実感してい
ない」「賃金が下がり続けている」と
する意見が圧倒的に多く、アベノミク
スには懐疑的な反応が出ている。
こんな生活実感を述べた有権者
の声をただ紹介しただけのTBSのニュ
ース番組に安倍首相は「おかしいじゃあ
りませんか」と逆切れしてクレームを
つけた。
首相の意向を反映して作られたのが
今回の要望書である。いうまでもなく
民放は放送法を順守しなければならな
いが、ささいな街頭録音まで政府が介
入してくれば、放送局は委縮せざるを
えなくなる。政府批判をさせない選挙
報道が狙いの要望書だろうが、まるで
独裁国家のようなメディア規制を思わ
せる。本来であれば、民放経営者は放
送ジャーナリズムを堅持し視聴者の疑
念を払しょくするためにもまとまって
抗議声明を出すべきだろう。
あすの公示日を控え、改めて選挙の
争点がけっしてアベノミクスだけでな
いことを確認しておきたい。強引な閣
議決定による憲法解釈の変更で、集団
的自衛権行使へと踏み込んが自民党は
今回、政権公約にこの言葉を入れてい
ない。あれほど国民の反発が強かった
政治テーマを隠して選挙戦に臨むのは
姑息以外何物ではない。十分国民が理
解してくれる自身があるなら、今回の
選挙でその是非を問うべきではないか
。
そして有権者は給料を減らし続け、
消費の拡大に何の効果ももたらしてい
ないアベノミクスの本性を見破る必要
性が一段と高まっている。毎日新聞と
言論NPOによる安倍政権の経済再生
への取り組み実績の評価は、1年前の
3・2点(5点満点)から2・8%に
後退した。異次元の金融緩和が物価高
の副作用をもたらしていることを実感
する有権者が増えたことも示し、少し
胸をなで下ろしたくなう。新約聖書の
一節に重ねるとと「その食べるパンも
減らされている」と言いたくなる。
「パン」も大事だが、もっと大切に
すべきは人の命や安全である。戦争、
放射能被爆などの危険は高まっていな
いだろうか。そんな自問を繰り返しな
がら、投票日を迎えたい。
【2014・12・1】