委縮せず、調査報道貫け | 平野幸夫のブログ

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ギリシャ語を語源とする「クロニクル」という
言葉があります。年代記、編年史とも訳されま
す。2014年からの独自の編年記として綴りま
す。


 自ら招いた誤報とはいえ、そこまで
卑屈になるとは……。朝日新聞の慰安
婦記事取り消しに、安倍首相が「世界
に向かってしっかり取り消しを」と同
社に求めた発言を15日朝刊で掲載した
。基本的人権を制限し国家主義的性格
を強める政権を監視する論調が期待さ
れているのに、政権の意向に迎合した
ような掲載不要な記事で、さらに失望
させる。取材不足でつまずいたとはい
え、福島原発事故の「吉田調書」報道
もそもそもは、本来公開すべき政府事
故調査委員会の証言を明らかにしなか
った政府の隠ぺい行為が発端だったは
ずだ。誤報だけを見て、勘違いしては
ならない。メディアは委縮せず、政府
が隠し続ける不都合な部分を明らかに
する調査報道を貫いてほしい。


 「吉田調書」の一報が出た直後も政
府は公開を否定した。それが朝日の取
材不足がはっきりしてきた今月になっ
て、一部を公表した。それも政府事故
調の調査を受けた約770人のうち、
たった19人の証言だけで、大半をまだ
隠し続けている。誤報でほくそ笑む関
係者も多いと想像でき、罪深い不祥事
になってしまった。


 福島の事故については東電のテレビ
会議映像についても当初から報道規制
を続けている。東電は巨額の国費が投
入され、実質国有化になっているのが
実態で、情報公開法の対象になってい
るはずなのに、政府は「(テレビ映像
は)一義的に東電の所有物」と説明し
、すべてが公開される見通しは立って
いない。


 そんな政府や東電の対応に風穴を開
けようというのが、朝日の取材チーム
の狙いだったはずだ。だが結果的にみ
れば、調書にない「命令」や「撤退」
という言葉を使って、記事を誤った方
向に仕立て上げるという致命的ミスを
犯してしまった。稚拙としか言いよう
がなく、そこには記者らの功名心すら
透けてみえる。


 失敗をして立ち直るために大事なこ
とは、原点に戻ることであろう。ほか
のメディアを含めて目指すべき視点は
、東電や政府関係者のモラルを問うこ
とでなく、住民らから告発されている
「業務上過失致死傷」の罪状に相当す
る具体的なやり取りを、証言などで明
らかにすることである。朝日の取材チ
ームの失敗は、職業倫理を問うだけの
批判記事にとどまり、もっとインパク
トのある刑事上の責任を問う視点に欠

け点だ。


 事故前、耐震強化策を怠った吉田所
長(当時部長)を含め東電トップらの
言動に業務上過失致死傷にあたる対応
があった疑念が払しょくされていない
。不起訴が不当と検察審査会で判断さ
れたように、東京地検の刑事捜査も不
十分である。



 捜査権を持たないジャーナリズムが
、巨悪を摘発できた例はいくらもある
。特に朝日は「リクルート事件」を地
道な取材の積み重ねでスクープし、政
界の金権まみれの体質を暴いた輝かし
い歴史がある。そんな先輩たちの金字
塔に恥じない取材活動に立ち戻るよう
奮起を期待したい。

      【2014・9・15】