古代(サンガム時代)のチェーラ王国(朝)
Sangam Era Chera Dynasty
 
今回からインド最南端のタミール系古代諸王朝、いわゆる「サンガム(シャンガム)時代」のコインの紹介です。

「サンガム」は紀元1−4世紀頃、インド亜大陸南端のタミール系王朝(パーンディヤ朝、チェーラ朝、チョーラ朝等)で盛んだった タミール文芸の総称で、転じて古代タミール諸王朝の時代を「サンガム時代」又は「タミラカム(タミールの母の意味)時代」と呼ぶようです。

このインド最南端エリアは、マウリア朝(紀元前322年-前185年頃)及びサータヴァーハナ朝(紀元前1世紀頃-後3世紀頃)の支配が及ばなかった地域です。(但し、これらの王朝のコインも出土するとのこと。)
 
今回はそのうちのチェーラ朝のコインです。
 
チェーラ朝
 
チェーラ朝は紀元前4世紀から 紀元後12世紀頃まで、南インドの西海岸(現在のケーララ州及び タミールナド州の一部)を中心に栄えた王国です。 「サンガム時代」の主要3カ国の一つです。
 
下の地図で大まかな版図が記されています。西海岸(マラバル海岸)がチェーラ、東海岸(現在のタミールナド州北半部)がチョーラ、南にパーンディア朝。
 
 
(出典 Wiki)
 
チェーラ朝は紀元前3世紀のマウリア朝・アショカ王碑文にケダラプト(Kedalaputo)として登場します。(現在のケーララ州の名前はチェーラ朝から来てるのですね。)

地理的に当時のローマ・地中海世界やアラビアとの交易が盛んで、古代ローマの博物学者の大プリニウスの「博物誌」、『エリュトゥラー海案内記』(共に紀元後1世紀)、クラウディオス・プトレマイオスの「ゲオグラフィア」(紀元後2世紀)にその名前が登場し、「ケプロボトラス(チェーラ朝)の支配するマラバル海岸(現在のインドケーララ州の海岸)の中心はムジリス(Muziris・現在のPattanam?)で、ローマ、アラブ、ギリシャの船で混雑し、スパイス、象牙、木材、真珠、宝石が輸出されている。」と記されています。ローマの金が枯渇する程の貿易量で、実際に現在でも金貨をはじめとする古代ローマコインが多量に出土するそうです。
 
さて コインです。
 

AE Unit, 4.36g/22.0x20.2mm, RK-124 var.
 
表:右向きの象。前にトライデント。象の上に4-5個のシンボル。
裏:弓矢。その下にアンクーシャ。
 
大まかにいえば、裏面に王朝のエンブレムである弓矢のモチーフがあるものがチェーラ朝のコインになります。(同様にパーンディヤ朝は単純化された魚、チョーラ朝は虎のエンブレムが裏面に刻印されています。)
 

 

左2枚はチェーラ、右は多分パーンディア。

 

 
左:5.71g/19.2x17.7mm、中:同上、右:6.96g/26.7x18.8mm(参考)

 

 (パーンディヤ朝のコインはもう少しコンディションの良いものがあるはずですが、どこかに紛れてしまっているので見つかったら後日別途紹介します。)
 


ついでに、少し古いですが「サンガム」時代のコインに特化した図録です。
 
 

 


「サンガム」時代の4か国のコインが収録されています。
 
パーンディア、チェーラ、チョーラ(初期チョーラ)、そして、マラヤラン朝です。パーンディヤ朝が最大の勢力だったようです。

チェーラとチョーラが紛らわしいのですが、別の王朝。チョーラ朝と言えば、11世紀に東南アジアまで遠征し、シュリビジャヤ帝国を実質的に支配下に置いた程強大になった南インドの王朝と同じ名前ですが、この新旧2つのチョーラ朝の関係ははっきりしていません。
 

 
典型的なチェーラコイン:

 



 なおチェーラ朝は、王の肖像と王銘の入った銀貨を発行しています。この本の表紙を飾っているコインです。

地中海世界・ローマとの交易が盛んで経済的に反映したため このコインはローマの銀貨を模して作成されたと考えられています。

ローマの金が枯渇するほどの金が流入したわけですから もっと立派な金貨を発行して欲しかったですね。




 このタイプは 数代の王にわたって発行されたらしく 王銘は数種類あります。

尚、チェーラ朝のこれらのコインとこのサンガム時代のコインに特化した図録は、古代インドコインに興味を抱くきっかけとなったものです。

この本の著者によると、インド南部の川の河床(河原でしょうね)でこのようなコインを拾っていたとのことで、コイン屋やオークションでの入手より妙に魅力を感じて、自分自身も行って拾ってみたいなーと強く思ったものです。

同様に、レバノンの化石屋のオーナーが子供の頃はビーチで古代コインを拾っていたとか、ヨルダンの遊牧民が拾ってきた古代コイン、パキスタンやアフガニスタンの出土コイン、インドネシアのパレンバンの川上りのシュリビジャやバンカ錫銭とか、宝探し的な要素にその後も惹かれて、その分野のコインを集めるようになり、今の一風変わった収集傾向が出来上がったような気がします。もちろん、古代ビルマやドヴァーラヴァティー等も同じ傾向で、遺跡巡りが好きなのも「古代の宝探し」といった共通項の成せる業ではないかと思うようになりました。


(チェーラ朝終わり)

 
参考
 
Sangam Age Tamil Coins, R. Krishnamurthy, 2003
 
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%A9%E3%82%AB%E3%83%A0
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%82%AC%E3%83%A0%E6%96%87%E5%AD%A6#:~:text=%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%82%AC%E3%83%A0%E6%96%87%E5%AD%A6%EF%BC%88%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%82%AC%E3%83%A0%E3%81%B6%E3%82%93%E3%81%8C%E3%81%8F,%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%82%AC%E3%83%A0%E6%96%87%E5%AD%A6%E3%81%A8%E3%82%82%E5%91%BC%E3%81%B6%E3%80%82
 
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%A9%E3%82%AB%E3%83%A0
 
https://ja.namu.wiki/w/%EC%B2%B4%EB%9D%BC%20%EC%99%95%EC%A1%B0
 
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Chera_dynasty