引き続き、古代南インドのサンガム時代のコインの紹介です。
今回はマラヤマン部族。(Malayaman Chiefdomをどう訳すかで悩みましたが、直訳では首長国となります。Dynasty(朝)とされている資料もあります。規模が小さな国なので部族としました。)
サンガム時代の三大国、パーンディア朝、チェーラ朝、チョーラ朝以外に小さな独立した部族が多数存在していて、その中の7部族がサンガム文学のパトロンとして記録されており、マラヤマンはその中の一つであると考えられています。
マラヤマンの中心都市は現在のタミールナド州都のチェンナイの南西約200kmのKovalur(別名、Tirukkoilur, Tirukkoyilur)というPennar川に面した内陸の山間部に位置し、この地理的な位置がコインのデザインに反映されています。
また、サンガム文学では、マラヤマンのKariという首長が、ある時はチョーラ朝側について、チェーラ朝に勝利したり、ある時は逆にチェーラ朝についてチョーラ朝を敗北させたりと、キャスティングボードを握っていたように書かれています。また、北からのアーリア人(南部のドラビタ人に対してアーリア人の血を引く北インド勢力と言う意味か?)の侵略を防いだともされていて、少なくとも軍事的には有能な人物で、駿馬にまたがる勇敢な戦士として描かれており、マラヤマンコインのシンボルに馬が使用されている理由ではないかと考えられています。
マラヤマンのコイン
AE Unit, 5.43g/20.6x19.7mm, ref. RK-222, Mitchiner 1998:205f
表:右向きの馬。馬の前にタミールブラフミ文字銘「Kari」(注)
裏:三つのピークの山、蛇行して流れる川、その中に魚、手前に大きな岩又は丘。マラヤマンの支配地の景観と考えられ、現在でも同じような景観が見られるそうです。
(注)R.Krishnamurthyは馬の前のシンボルをマラヤマンの勇将Kariの銘がブラフミ文字で記されているとしていますが、アンクーシャ(象使いが使う突き棒)と棒が描かれているというタイプもあります。ブラフミ文字の事は分かりませんが、見た限りは文字というよりアンクーシャ等のシンボルのような気がします。只、この個体は馬のスタイル等比較すると、図録のRK-222(Kari銘入り)であると思われます。
オークション会社の説明では、紀元前1世紀~後1世紀のものとされています。
ハーフユニットと思われるものも存在します(右の個体)。
AE Half Unit, 2.11g/16.1x17.7mm
基本的に同じデザイン。(裏面の左側に縦線のシンボル、RKのよると槍又は道路。)
馬の上部にマラヤマン(ma-lai-ya-n)とタミールブラフミ文字銘があるものや、ナンディパダ等のシンボルのあるもの、馬の向きが左のもの等、いくつかの種類があります。
いずれにしても、マラヤマンはかなりの小国。そのコインが現存し、その銘によりサンガム文学に出てくるマラヤマン発行と判明し、更に伝承文学の内容とコインのデザインに整合性が見られる事は、コインが古代史の解明に一役買っている良い例ですね。
マラヤラムの位置:
(マラヤマンの位置 出典Ancient Indian Coins)
サンガム時代のコインは一旦ここまでです。
チョーラ朝のコインはインド国外では殆ど市場に出ないので残念ながら未保有です。
参考資料:
Sangam Age Tamil Coins, R. Krishnamurthy