古代インド 34 ヤウデイヤ(ヤウデーヤ・Yaudheya)

 

順序立てた古代インドのコインの紹介は久しぶりです。(順序的には「古代インド 33・ウッジャイン(3)」の次になります。)

 

前回までで、マウリヤ朝(紀元前322年頃~紀元前185年頃)崩壊後からクシャン朝1世紀~3世紀頃)の勃興の間にインド北半分各地に割拠した小国家のコインを紹介しました。

 

順番から言えば、クシャン朝が次に来るべきですが、あいにくクシャン朝のコインはまだ整理が全くできていません。そこで、時代を下って、クシャン朝衰退期からグプタ朝(320年~5世紀頃)の勃興の間に再度北インド各地に割拠した小国家のコインをいくつか紹介します。

 

まずはヤウデイヤ共和国です。(マウリヤ朝とクシャン朝の間の時期のコインは以前紹介しています。)

 

 

ヤウデイヤは現在のデリーの北、ハリヤナ州にあった共和国です。戦闘に優れた部族連合体で、紀元前5世紀頃に記録に現れますが、マウリヤ朝に吸収されます。

 

マウリヤ朝弱体化・崩壊に伴い独立し、シュンガ朝とインドグリークの間に位置するものの独立を保ちますが、インドスキタイに滅ぼされた後、クシャン朝の版図に組み込まれます。

 

その後、クシャン朝の弱体化に伴って、再度独立します。4世紀まで独立した共和国として栄えますが、今度はグプタ朝に征服されます。

 

 

ヤウデイヤの位置

出典:ウィキ(Indian tribes between the Indus and the Ganges - Yaudheya - Wikipedia

 

 

コインは、マウリヤ朝崩壊後クシャン朝に征服される間の期間と、クシャン朝から独立してグプタ朝に征服されるまでの期間発行されています。今回は後者の期間のコインを取り上げます。

 

この時期のヤウデイヤのコインは、表面にヒンズー教の勇気・戦争の神であるカルティケーヤが、裏面にはシバ神のような神像が描かれています。神様のスタイルはクシャン朝の銅貨に雰囲気が非常に似ており、コインのデザインからはクシャン朝の衰退がはじまる前、例えばフビシュカ王(162年頃-180年頃)の頃に独自のコインの発行が始まった(つまり、独立状態となったか、高度な自治が認められた)可能性があります。発行時期は各種資料で異なりますが、紀元後1-2世紀としておきます(インド国立博物館による。これではフビシュカ王とは少し時期がずれますが…。個人的にはカニシカ王コインのスタイルにより似ているように感じますので、そうであれば概ね時期が一致します。)。

 

3種類のコインが並行して発行されているようで、「数字の無いもの」、「2」、「3」、と3種類あり、微妙にデザインが違うとともに、発行地/流通地域が異なると考えられています。ヤウデイヤの領土の拡大に伴って、数字無し(1)→2→3と地域とコインの種類が拡大したとの推測です。

 

 

 

左(数字なし:Division 1)

 

 

AE Unit, 11.29g/25.0mm, Ref. Mitchiner 4707/4719

 

表:槍を持つカルティケーヤ立像。右下に孔雀又は鶏。「Yaudheya Ganasya Jaya/ヤウデイヤ人の勝利」のブラフミ文字銘(午後一時の位置から時計回り)。

裏:神立像(クシャン朝のマオ神に似たスタイル)。

 

 

 

中(Division 2)

 

 

AE Unit, 11.20g/24.2mm, Ref. Mitchiner 4711/4722

 

表:同上。但し、左上(槍と顔の間)にブラフミ文字で2(dvi)。

裏:同上。但し、左にプルナカラーシャ壺(又は蓮)、右にナンディパダ。

 

 

 

右(Division 3)

 

 

AE Unit, 10.33g/25.0mm, Ref. Mitchiner 4716/4725

 

表:同上。但し、左上(槍と顔の間)にブラフミ文字で3(tri)。

裏:同上。但し、左にほら貝、右にS字様のシンボル。

 

 

尚、ミッチナーは重量と裏面の神像の大きさで、最初期(12g/神像大)→初期(11g/神像中)→後期(10g/神像小)と分類しています。

 

これ等のコインのモールドは素焼きで、ハリヤナ州Rohtak(ニューデリーの北西70km)等で数千枚出土しています。コイン自体の現存数も多いはずです。


素人考えですが、素焼きの型であれば、一つの型からコインは一枚しか作られず、粘土の型の為の母銭のようなものがあったとすれば、母銭の違いで一定の範囲のバラエティーに収まり調査母数が多ければ細分類が可能でしょう。仮に母銭が無く一枚一枚手作りであったとしても、時期や地域(彫り手)によって特徴があるはずなので、調査母数が多ければ面白いとは思います。しかし、自分の個体とミッチナーの図録写真と特徴が一致しないものが多く、Division 1-3以上の細分類は行っていません。


コインのシンボルに、古代下ビルマ(マルタバン湾沿岸)やタイのドヴァーラバティーのコインで多様される、ホラ貝やプルナカラーシャ壺が選ばれているのも興味深い点です。

 

 

尚、月間『収集』1989年11月号に「古代~古典期のオリエント・コイン(28)古代インド ヤウデーヤの鋳造貨」として馬場定美氏が記事を投稿されています。私は実物を拝見していないのですが、もう少し詳しく書かれているのかもしれません。

 

 

参考:

Oriental Coins and Their Values, The Ancient & Classical World, 600 B.C. – A.D. 650, by Michael Mitchiner, 1978年

古代インド 11 ヤウデイヤ(Yaudheya) | アジア古代コイン (ameblo.jp)

Coin of Yaudheya Dynasty | INDIAN CULTURE

Yaudheya - Wikipedia

ancient indian coin collection : Coinage of Yaudheya or Yaudheya Gana (ancient-indian-coins.blogspot.com)

 

(終わり)

 

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