古代インド 17 アゴダカ(Agodaka/Agacha/Agroha)

 

今回は、アゴダカの銅貨です。あまりなじみのない地名ですし、コインそのものも小さくあまり状態は良くないものです。

 

ミッチナーの分類で、「Agachamitra of Agodaka(Agroha)」とされているものです。こう書かれても何だか分かりません。 現在のインド北部パンジャブ州南部からハリヤナ州にかけて存在したアゴダカという小国家の発行した銅貨です。紀元前150-紀元前100年頃とされています。

 

アゴダカは、タキシラとマトゥラーを結ぶ北インドの主要な通商路に位置し、紀元前3世紀頃には独立したジャナパダとなっていたようです。その後、マウリヤ朝・シュンガ朝の支配下に入り、その衰退・滅亡期に再独立し、このようなコイン(↓)を発行していたと考えられます。紀元前3世紀頃の都市遺構の発掘は行われていますが、アゴダカについては残念ながら詳しいことは良く分かっていません。

 

 

Agachamitras of Agodaka, AE 1/4 Karshapana, 3.55g/13.7mm/3.3mm(h), ref. Mitchiner 4481 var. (ex-John Page Collection)

 

表:右向きのライオン

裏:柵に囲まれた木とその周りにブラフミ文字銘「Adodaka Agacha Janapadasa?」の極印。

 

径は小さいものの、厚み(3.3㎜)のある銅貨です。

 

(注):「Agodaka」が古代都市(又は小国家・Janapada)の名前、「Agroha」は現代のハリヤナ州に位置するその都市の現代の地名で、そして、「Agacha」はコイン銘に現れる部族名、「Agachamitra」もコイン銘の部族又は王の名前と考えられます。インドの古典「マハーバーラタ」等では「Agreya」や「Agrodaka」と記載されているそうです。

 

Agodaka(Agroha)の位置

 

 

 

このコインは、かなり前に海外のオークションで古代インドのグループロットの中に入っていたものです。

 

元々、John Pageというインドコインでは時々名前が出てくる人のものだったようで、彼の手書きの整理・備忘メモも付いていました。

 

 

 

1995年のAmerican Numismatic Associationのイベント・展示会で入手したのでしょう。

 

以前はこのようなものは捨てていたのですが、来歴というか、このコインが辿ってきた経緯が分かりますし、今となってはこのようなコインホルダーサイズの紙のメモはかなりノスタルジーを感じます。手書きですし。

 

実際に、状態も良くない・レファレンスもあまりない分野のコインでは、こういうメモでも非常に役に立ちます。

 

ミッチナーの該当番号には似たコインが収載されていますが、残念ながらドンピシャ同じタイプではありませんし、ブラフミ文字銘も完全に解読できません。ネットで調べると、このタイプのコインはかなりの種類があるようですが、詳細はよく分かりません。

 

このコインだけでなく、古代インド全般に言えることですが、ミッチナーの図録は少し古い知見に基づいて広く浅くインド古代コインを収録しています。

 

実際には、インド各地で多種多様な古代コインが出土していて、ミッチナーの図録に収載されていないコインが夥しい種類あると思われます。それぞれ地域にその地域専門の収集家・貨幣研究者がいて、その地域に特化したコインの図録やペーパーを随時発行している印象を持っていますが、全てを網羅する新しい図録が存在するのかしないのかすら良く分かりません。「Numismatic Digest」という本が定期的に発行されているようですが、全体的な図録ではないですね。

 

コインの発行地、発行者、年代等の解釈も色々な意見があり、いかにもインドらしく、カオス状態のように見受けられます。

 

広い国土と長い歴史があり、多種多様な民族・文化が入り混じって、しかも,中国のように全土が統一されていた期間は殆どない為、コインの種類という意味では中国をはるかに凌駕するものだと思います。ヨーロッパと比べてどちらが多いのかは想像もできません。

 

インド国内での研究や収集家の活動は活発に行われているようで、インド国内では幾つかオークションも行われていますが、100年以上古いものの海外への発送は違法となるため外国人の参加は限られていると思われます。ウェブで覗くと、見たこともないようなコインも良く出品されています。私も実際あるオークションに参加しようとして、落札品の海外送付は違法になると言われ、参加断念した経緯があります。

 

このブログでは、自分がたまたま保有している古代インドコインを紹介続けていますが、これは全体像のほんの僅か一部分で、ミッチナーの図録の情報もどの程度の範囲をカバーしているのか?今日では誤りとなっているものも少なからずあると思います。

 

以上ご留意いただいて、「なんだかわからないけど、こんなものもあるんだ。」程度に見ていただければと思っています。(本来、古代インドの初めに書くべきでしたが、このコインの分類で、カオスを実感したので、ここでちょっとコメントしました。)

 

 

 

参考:

 

Oriental Coins and Their Values, The Ancient & Classical World, 600 B.C. – A.D. 650, by Michael Mitchiner, 1978年

Extremely Rare Copper Square Coin of Agroha Janapada of Punjab-Haryana Region. (marudhararts.com)

Agroha (town) - Wikipedia

Numismatic Digest | IIRNS - Publications LLP (iirnspublications.com)

 

(続く)

 

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