インドスキタイ 17 ラジュブラ Rajuvula (Rujuvula)(BC 25/10/1・AD 10年~BC 15・AD 1/10/25年頃) 付録:バドラヤシャ・ウェスタンクシャトラパ

 

今回は、Northern Satrap/Mahasatrapと呼ばれるラジュブラです。インドスキタイは今回が最後です。

 

ラジュブラは、カシミール地方に最後まで残っていたインドグリーク(ストラトンII世・III世)を破り、この地方のサトラップとなった人物です。又、その後、インド北部マトゥラー地域を支配下に置き、当地で発見されたマトゥラーライオン柱頭にその名が残されています。

 

彼はいくつかの種類のコイン(ドラクマ銀貨・劣銀貨・鉛貨)をカシミールとマトゥラーで発行していますが、いずれも小型のものだけです。‘

 

 

 

①    ラジャブラのドラクマ銀貨

 

2.41g/14.5mm, ref. Mitchiner-2498

INDO-SCYTHIAN: Rajuvula, ca. 25-15 BC, AR drachm, Mitch-2498, Senior-151, king's bust right // Athena standing, holding thunderbolt & shield, Kharosthi legend around chatrapasa apratihatachakrasa rujuvulasa ("of Satrap Rajuvula of the invincible Chakra")

 

表:王の肖像。ギリシャ語銘「ΒΑΣΙΛΕΟΣ ΒΑΣΙΛΕΟΝ ΣΟΡΕΡΟΣ ΡΑΖΘ (BASILEOS BASILEON SOTEROS RAZU)」。文字の錯誤・崩れ字多数。

 

裏:雷電を構え・盾を持つアテネ・アルキメドス。左下と右にモノグラム。カローシューティ文字銘「Chatrapasa apratihatachakrasa rajuvulasa」(サトラップ、無敵のチャクラ、ラジュブラ)。

 

カシミールのインドグリーク・ストラトンII世のものを模倣したもの。ギリシャ語銘・カローシューティ文字銘ともにこの個体では確認できませんが、角ばった肖像はラジュブラの特徴です。

 

 

 

②    ラジャブラのドラクマ劣銀貨(銅貨)

 

2.28g/11.9mm, Mitchiner-2501

INDO-SKYTHIANS, Northern Satraps. Rajuvula. Circa 25-15 BC. CU Drachm. Diademed and draped bust right / Athena Alkidemos standing left; monogram? and O to left. Cf. Senior 152 (for type); HGC 12, 734. 

 

上記と同じデザイン。劣銀貨又は銅。異なるモノグラム。

 

 

 

③    ラジャブラの鉛貨

 

2.07g/113.0mm, Ref. Mitchiner 2504

 

表:ライオン。ライオンの上にモノグラム。ギリシャ語銘解読不能。

裏:ヘラクレス。カローシューティ文字銘「Mahachatrapasa apratihatachakrasa rajuvulasa」(大サトラップ、無敵のチャクラ、ラジュブラ)。図録上はこのような説明となるが、デザインも銘も全く判別できない。

 

 

 

④    バドラヤシャ(ラジュブラの後継者?)のドラクマ銀貨

 

2.22g/14.5mm, ref. Senior 160-2D, Heinz Gawlik & Saad Mirza in JONS #236

INDO-SCYTHIAN SATRAPS: Bhadrayasha, ca. 100 AD, AR drachm, Senior-106-2D, diademed bust right // Athena Pallas standing, Kharosthi legend around containing the name bhadrayasha.

 

表:ディアデムを巻く肖像。ギリシャ語銘「BASILEWS SWTEROS ZLIIoY "Saviour King Zoilos"」。

裏:アテネ・パラス(アテナ・アルキメドス)。左右にモノグラム(カシミール)。カローシューティ文字銘「Maharajasa Tratarasa Bhadrayashasa, "Saviour king Bhadayasha"」。

 

ラジュブラの後継者でインドグリーク王国を滅亡させた人物とも考えられている一方、上記のコインはインドグリークのゾイロスII世のものを模倣している(ギリシャ語銘はゾイロスII世のもの)為、ラジュブラの前のサトラップとも考えられている。(その場合は発行年は古くなる。)

 

肖像と裏面のデザインはストラトンII世にそっくり。

 

結局、カローシューティ文字銘で確認するしかないのですが、残念ながら判別できませんでした。オークショナーのアトリビューションを信じての分類とします。(複数枚入手できれば確認できるかもしれませんが、価格は高くないものの、市場に出る機会が殆どなく、入手は極めて困難です。)

 

 

インドスキタイのサトラップは、今まで紹介した以外にも殆ど聞いたことのない名前のものが偶に市場に出ますが、詳しいことは良く分かっていません。

 

ほどなくして、インドパルチア、そしてその後すぐにクシャン朝が登場することになり、インドスキタイは西部グジャラート地方で一時的にインドパルチアの支配下となりますが、すぐに独立、ウェスタンクシャトラパとして5世紀初めグプタ朝に征服されるまで命脈を保つことになります。

 

 

⑤ ウェスタンクシャトラパの典型的なドラクマ銀貨

 

2.1g/14mm

 

表の王の頭の後ろにサカ暦で発行年、裏面は中心に3つのアーチの丘・川・三日月と太陽があり、その周りをブラフミ文字で「XXの息子、マハクシャトラパ〇〇」と記されている、かなりスタンダード化されたコインです。

 

たまたまグループロットに入っていたもので、解読が面倒なので分類していません。あくまで参考まで。

 

 

 

参考:Oriental Coins and Their Values, The Ancient & Classical World, 600 B.C. – A.D. 650, by Michael Mitchiner, 1978年

CNG

インド・スキタイ王国 - Wikipedia

Rajuvula - Wikipedia

Bhadayasa - Wikipedia

西クシャトラパ - Wikipedia

 

(続く)

 

 

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