今回がテナセリム地方の大型錫銭の最後になります。今回紹介するタイプは現存数の少ないものだと考えられます。
57.03g/70mm. Ref. Robinson-18 (Plate 10.1), Elizabeth Moore, "Dawei Buddhist culture: a hybrid borderland," in Myanmar Historical Research Journal, vol. 21 (June 2011). (obv. design only)
表：右向きのHintha（私の目には鶏に見えますが）、その周りに、パーリ語のビルマ文字表記で、「Maha Sukhan Ga Nagaran/ City of Great Rest (or) Happiness／大いなる安らぎ（幸福）の町」。（前回紹介したトーのタイプの裏面と同じ文言。）
裏：右向きのナーガ（ドラゴン）その下に波。ナーガは前々回紹介したタイプと同じデザインですが、ナーガの下がドットで海を表すのではなく、より分かりやすい波で表現されています。
29.24g/56mm. Ref. Robinson-9 (plate 7.5)
八角形でやや小型のタイプ。
表：右向きのHintha、その上に漢字で「民安」。
裏：3行にわたるビルマ語。中心に穴銭を模したような方孔。
マレーシア・タイ・インドネシアと同様、漢字の表記のある錫銭は当時華人が経済面で重要な役割を担っていた事を示すものですが、地名や商業的な銭銘ではなく、公共的な願望・キャッチフレーズのような「民安」が使われているのは、他の地域では見られない特色です。
72.42g/56mm, Unpublished.
同じく八角形でやや小型のタイプであるが、厚みがあり重量は重い。
表：右向きの象。象の上部に不明のシンボル（漢字かどうか不明）。
裏：3行にわたるビルマ語。中心に穴銭を模したような方孔。
このタイプはずっと欲しかったのですが、最初にマーケットに出現してから三度目の正直でようやく今年入手できました。
八角形のものは丸形より現存数が少ないように思われます。（保存状態も悪い。）
左：38.83g/71mm、右：38.61g/69mm, Htun 294.2
表：左向き、嘴に枝をくわえているHintha。嘴と尾の下に複数のドット。
裏：角張ったビルマ文字。右の個体は最上部と三行目の最も右に一字追加されている。
角張ったビルマ文字というのはあまり見たことがないので、何故わざわざこのような字体を使ったのかは不思議な感じがします。この字体の見た目はアラビア語（Jawi）の銘文があるマレー・インドネシア発行錫銭の字体に似ているので、マレー方面からの影響なのかもしれません。尚、マレーシアケダー州でもテナセリム大型錫銭のホードが出土しているとの情報もあるので、使用範囲がマレーシア北部まで広がっていた可能性もあります。
左：59.43g/68mm、中：61.72g/70mm、右：54.61g/68mm、Ref. Phayre-Plate III.3 (obverse only), Elizabeth Moore, "Dawei Buddhist culture: a hybrid borderland," in Myanmar Historical Research Journal, vol. 21 (June 2011).
表：右向き、嘴に枝をくわえているHintha。尾の下に複数のドット。
裏：ビルマ語で「ta-weh／ダウェイ」
このタイプは今回紹介した中では比較的多数現存すると思われます。地名が書いてあるので発行地はダウェイでしょう。
テナセリム大型錫銭は過去に文献でいくつかのタイプは紹介されていましたが、実際に市場で現物が入手できるのは一部のタイプに限られていました。ここ2年程突然市場にたくさんのタイプが出現してきたので、いまだ全体像（どの程度の種類があり、それぞれのタイプが何枚ほど現存しているのか）は分からない状況です。数百年前とさほど古くなく、又近年出てきたものは特に状態の良いものも多いので、寺院や旧家のようなところから伝世品の様な状態が良いものや、未知のタイプがまだ出てくるのではないかと期待しています。
尚、パゴー・テナセリム地域では、１９－２０世紀に中型の様々なデザインの錫トークンといわれるものが発行されていますが、ネットで見ると一部贋物らしきものもあるのでご注意ください。
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