今回から、ミャンマー中南部、マルタバン湾沿岸のコインを紹介します。

 

マルタバン湾は、ドバーラバティー王国コインの記事でも紹介しましたが、マレー半島の西側の付け根にあたり、インド方面からベンガル湾・アンダマン海沿いの海の交易路がマレー半島に突き当たる位置になります。このエリアからは、エーヤワディー川を北上するとピューのシュリークシュートラ・ベイクタノ・ハリン、シッタン河を北上するとやはりピューのサモン谷地域、サルウィン川を北上するとタイ中部北部、南東に陸路三仏塔峠を越えてタイチャオプラヤ川流域(ドバーラバティー)及び更に東へ、風待ちの後マラッカ海峡を南東へと、海のシルクロードの中継点として非常に重要な地域であったと思われます。

 

インドをはじめ西方の文化や人々が次々に渡来し、港市や小国家を建設したと思われ、貨幣の発行・使用も比較的早い時期に始まり、又、出土するコインもバラエティーに富んでいます。

 

コインの出土という観点での主要都市は、①湾岸最深部(チャイトーやビリン等)、②シリアム、③ペグー、④タトーン、⑤テナセリム及びクラ地峡地域(正確にはマルタバン湾ではありませんが、便宜上ここに含めて紹介します。)等があります。なお、この地域は少なくとも一時的にドバーラバティー王国の支配下にはいったと思われ、その時に発行されたと思われるコインは既に紹介しているので省略します。(詳細はドバーラバティーのコイン 5 | アジア古代コイン (ameblo.jp)をご覧ください。)

 

今回は①湾岸最深部(チャイトーやビリン等)のコインの紹介です。この地域出土のコインは現存数が少なく貴重なものが多いです。

 

8.97g/19mm エレクトラム貨 Full Unit Ref. Mahlo 2.1, Htun 149.1/150

表:ほら貝(写真は左が裏、右が表です。)

裏:仏教の三宝のシンボルとスタンダード(紋章旗・紀章旗)の上部(注)

発行地:チャイトー付近

発行時期:1世紀頃

 

このコインは、ミャンマー最古のコインの一つと考えられています。金の純度によって、より金貨に近い外観のものから銀貨の外観のものまであり、金貨/銀貨を別の分類とすることもあります。Full, one quarter (1/4), one twentieth (1/20)の三種類が知られています。

 

数十年前に、チャイトー近郊のビンロウ畑で素焼きの壺に入ったフルユニットの金・エレクトラム貨が30-40枚出土。そのうち数枚は政府の考古学部へ、2枚がコレクターの手に渡り、残りは全て発見者によって溶解され再利用されたとの事。これ以前も以降もフルユニットの出土はないそうです。(市場ではもう少し見かけるので、5枚程度、又はそれ以上は現存していると思います。ミャンマー政府が秘密裏に放出しているのかもしれませんが。)

 

(注) 同じシンボルが以下のインドスキタイ銀貨(表、馬の右下)に使用されています。

Zeionises, as Northern Satrap, Circa 45/35-5 BC. AR Tetradrachm, 10.06g/28mm, ref. Senior 132.26T; HGC 12, 722., Mitchiner 2463, Fig. 4b of JONS No.239 (Spring 2020) “Zeionises as Successor of Azilises” by R.C. Senior (現品)。カシミールで出土した36枚のAzilises及びZeionisesの珍しい銀貨の一枚。(ただし、写真のタイプはインドスキタイコインの中では比較的珍品ですが、入手が不可能なほど希少なわけではありません。かなり先になると思いますがインドスキタイコインはまとめて紹介します。)

 

 

0.65g/9mm, 1/20 unit, Mahlo 2.6, Htun 149.3

同上。(銀貨と思われる。)これは比較的多数現存する。

出土地は、チャイトーやその近郊の、Theinzayat, Taungzu, Zokthok他。

 

 

参考:

以前、「ドバーラバティー 9補足」で掲載した地図です。今回から取り上げているのは地図で「金隣」と記載されている地域です。

出典:ドバーラバティー 9(補足) | アジア古代コイン (ameblo.jp)

 

今回はここまで。次回に続く。

 

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