写真は典型的なドバーラバティー王国のコインです。

 

表は、法螺貝(sankha)、裏は吉祥天(インドヒンズー教のビシュヌ神の神姫ラクシュミーが原型)の館を意味するスリバッサ(srivatsa)、その内部は金剛㭌(vajura, インド神話のインドラ(帝釈天)の武器)、上部には太陽と三日月、左にカマラ(fly whisk, camara)、右にアンクーサ(ankusa, elephant hook いずれもヒンズーの神が持つ武器)、下には魚のモチーフ。銀 9.01g/27mm (cf Mitchiner 626, Mahlo 63.1.3)

 

この種類のコインはモチーフのバラエティーに富んでいて、例えば魚が左向きだったり、金剛㭌がスリバッサの左横にあったり、いろいろな種類があります。


仏教が盛んな国なのにコインはヒンズー系のシンボルが多用されているのがやや不思議です。現在のタイの仏教もヒンズー教の要素がかなり入っていますが、このコインはヒンズー教国のコインのような。。。

 

タイではドバーラバティの代表的なコインとされていますが、ミャンマー側では同じモン族の地域であるマレー半島の付け根マルタバン湾付近(Kyaikkatha)でも出土します。最近はタイよりもミャンマー側での出土例が多く、又タイでは出土しない2グラム前後の四分の一単位の少額貨幣も出土しているので、正確にはミャンマー側のコインかもしれません。東南アジアのコインや骨董は一般的に出土地の特定は困難ですが、このコインの出土地域状況からは、ドバーラバティは、現在のタイ領土までではなく、ミャンマー側のマルタバン湾側までがその領域だったのかもしれません。スリーパゴダ峠を越えてタイのシャム湾とミャンマーのマルタバン湾を結ぶマレー半島横断ルートは古の海のシルクロードの主要ルートの一つです。又、マルタバン湾からサルウィン川を遡り、中部タイのモン族の主要都市のシテープ経由、製鉄や製塩が盛んであったイサーン(現在のタイ東北地方)を結ぶルートも主要な交易路であったと考えられています。同国の経済基盤やモン族の分布を考えるとマルタバン湾までをドバーラバティの領域と考えるのは合理的な解釈かもしれません。素人の推測にすぎませんが。地図付きで将来解説します。

 

尚、スリバッサは、ミャンマーのピューやモンのコインでよく使用されるモチーフです。ピューの扶南旭日銀貨(扶南の首都の外港でベトナム南部のオケオ遺跡のフランスによる発掘調査で15枚出土したのが正式な学術デビューだったので、誤って扶南の名前が付いたのですが、実際はピューが発行して東南アジア大陸部で広く出土する銀貨です。)の裏面もモチーフはかなり異なりますが、同様にスリバッサが描かれています。インドの古代コインでもスリバッサは一部使われていますが、ピュー・モンはこのモチーフを特異的に多用しています。理由は分かりません。(わからないことだらけですが。。。)