認知症のもつ幻覚、妄想、抑うつなどの精神症状については、どう理解したらいいでしょうか。
たとえば、なくしたものを盗まれたと思い込む、「もの盗られ妄想」を例に考えてみましょう。
大事なものをしまい忘れるのは、認知症の人なら多くの人に起こる中核症状といえます。
いつものしまい場所でなく違う場所にしまいこみ、すっかり忘れたために、「通帳がなくなった」と始まります。
人に頼らずに、自立して生きたいという気持の強い人では、自分が忘れるわけなどないと言います。
忘れたなどということが、受入れられないと思うあまり、「そばで世話をしてくれている人が、盗んだ」と言います。
すなわち、このような「もの盗られ妄想」が、しばしば見られてまいります。
これは、もの忘れという中核症状に、自立心が強い性格や心ならずも家族に迷惑をかけているという状況が更に影響がして、起こる行動・心理症状といえます。
なくし物が出てくれば、それでおさまる妄想でありましょう。
ですから、周囲の人は、あまり深刻にならず、疑われている介護者の方が疲弊しないように、心理的な支援をしてあげることが大事です。
このような妄想は、時期がくれば、自然に見られなくなりましょう。
また、「もの盗られ妄想」が、より複雑な妄想になることさえあります。
たとえば、妄想的になりやすい素質を持つ人にストレスがかかりますと、単純な「もの盗られ妄想」から、「嫁は、家の財産をねらっている」とか、「家を乗っ取られる」といった妄想へと発展してします。
したがって、単純な「もの盗られ妄想」にしては、その訴へがオーバーだったりするときは、妄想の対象となった人を守るためにも、本人の症状を軽減するためにも、認知症もつ特性といったものについて、よくよく皆で理解することが大切になってまいりましょう。
行政書士 平 野 達 夫
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