バスが、止まります。
前方の乗車口のドアが開き、一人のお年寄りの乗客が、ステップに足を掛け乗車します。
お年寄りは、空いた席に目をやり、席に腰を下ろします。
その様子を見届けて、バスはゆっくりと発車します。
いつもながらの路線バスの光景です。
都市社会にあっては、人はあふれ、街は混雑します。
駅の改札で、階段で、路上で、足早に人は行き交い、すれ違います。
時には、体がぶつかり合うことも出てきます。
これは私たちが、日々目にする光景で、そのテンポは流れ、急ぎ動きます。
今日の高齢化の進む社会の中にあって、お年寄りの行動が問われることもあります。
お年よりは、いかに街の雑踏の中で、喧騒な動きとマッチしていったら良いのでしょうか。
「もたつく権利、よろしく」の文字があります。
これは、近頃「公共広告機構」が、広く国民に呼びかけ掲げたお年寄りのための用語文です。
笑顔を浮かべたお年よりの写真もあります。
何かと忙しい現代社会は、スムーズな流れを乱すことに不寛容です。
一方高齢者にとって、時間は、ゆっくり流れているとも言えます。
私は、今69歳を迎えています。
既に、立派な高齢者の仲間入りです。
でも昔がそうであった様に、未だ私は、数秒の待ち時間を嫌い、他人のもたつきにいらたつタイプなんです。
だからこそ、いつも周囲の目が気になるのかも知れません。
妻がよく私に言います。
「あなた、もう少しゆったりとしたら・・・・・」
誰にも老いは訪れます。
父や母が多くの幸を与えてくれたように、そして先輩の方々が豊かな恩恵を与えてくれたように、社会に多くの足跡を残してきた高齢者が、「堂々ともたつける社会」になりますよう期待します。
それは私たち一人一人にとっても、居心地の良い社会のはずだと、考えるところではないでしょうか。