世界に伍するスタートアップ・エコシステムの拠点形成戦略を策定し、実行に移さなければならない。前回紹介した平井ピッチ(HIRAI Pitch)、これまで大臣室で33回、地方で7回開催し、AI/IoT、バイオ、量子、宇宙などの分野で果敢に挑戦を続けているスタートアップ、VC、研究者等、計87名の皆さまからピッチを受けた。日本には高い技術力、新しいアイデアの構想力を持った人材が多数いることを改めて認識。だが一方で、横の繋がり、ネットワークが弱く、組織などさまざまな「壁」を越えられていない、というのが共通した課題。結果、極めて高いポテンシャルがあるのに、その実力が産業や社会的な価値として十分に表れていない。また、世界では、disruptiveなイノベーションは「都市」を中心に起きている。それも「都道府県」のような広域レベルではなく、都市・地区のレベルで。日本では、エコシステムの拠点として都市を形成していく視点が弱い、ということも分かった。これらの分析をもとに、今後、私たちがとるべき戦略の要諦は、スタートアップ・エコシステムの都市形成に着目し、異業種・異分野との融合を進め「壁」を打ち破れるだけの加速度をつけることで、その高いポテンシャルを開放すること。それも持続的に。要約すれば『Beyond Limits. Unlock Our Potential.』ということだ。

3月29日に官邸で開催した「統合イノベーション戦略推進会議」。ここで私から、7つの項目から成る「世界に伍するスタートアップ・エコシステムの拠点形成戦略」を報告、議論させて頂いた。今回は、この戦略の概要を紹介させてもらいたい。

この7つの項目、いずれも重要な施策であるが、ここでは幾つかに絞って説明する。まず、戦略1「世界と伍するスタートアップ・エコシステム拠点都市の形成」について。世界のユニコーン企業の殆どが、主要なスタートアップ拠点の都市から輩出されていることを御存知だろうか。各国のユニコーン企業のうち、米国はシリコンバレー、NY等の4都市で80%、中国は北京、上海等の3都市で83%、インドはニューデリー、バンガロールの2都市で77%、英国はロンドンの1都市で62%、を占めている。特にNYは、リーマンショック後、緻密なエコシステム分析に基づいて、人材、コミュニティづくりを抜本強化し、スタートアップ拠点の都市へと変貌を遂げた。スタートアップ・エコシステムは、都市計画として実施されているのであり、日本もこれに学ぶ必要がある。都市毎に、エコシステムを阻む「ギャップ」を詳細に調査分析し、幾つかの世界に伍するスタートアップ拠点となりうる都市への集中支援を実施すべきだろう。

次に、戦略2「大学を中心としたエコシステム強化」。スタートアップの拠点としての都市形成を考えたとき、大学は知識集約型社会・産業の中心として重要な役割を果たす。現に、先に挙げた都市では、大学を中心としたエコシステムが機能している。地方自治体は、大学、民間プレーヤーとも連携し、地理的・物理的なアクセスも加味し計画的にエコシステム形成を進める必要がある。また、大学ではグローバル・マーケットも意識した起業家教育プログラムやアクセラレーション機能の強化、ハッカソン、ブートキャンプ等の促進をしていく。もちろん、初等中等段階からの創業教育も重要だ。

戦略3「世界と伍するアクセラレーション・プログラムの提供」について。アクセラレーター、アクセラレーション・プログラムは、スタートアップが横の繋がり、ネットワークを強化し、さまざまな「壁」を越えていく情報、手段を提供する。権威、実績あるアクセラレーション・プログラムは、それ自体がスタートアップにとって重要なキャリアパスになる。しかしながら、日本にはユニコーン企業にまで成長した成功体験が極端に少ない。世界で成功した経験を持つトップアクセラレーターを招へいし、最初からグローバルな展開を視野に入れて、取り組むべきである。

その他、ギャップ・ファンド(Gap Fund)の拡充や、政府自らスタートアップの顧客となり、同時に与信を行うため、公共調達へのスタートアップの参入促進を図ること、タテワリ、サイロを打破すべく、スタートアップに関わる多様な人材のネットワーク化やオープンイノベーションを推進し、ロールモデルの表彰やイベントの強化などでチャレンジする機運を醸成すること、人材の流動化を促進し優秀な人材のスタートアップへの流入を促すこと、などが戦略の柱だ。

世界ではデジタル化とグローバル化が不可逆的に進んでいる。新しい多様なアイデアや技術が創出され、そして失敗しても何度でも挑戦できる環境が、社会・産業構造の変化をもたらすdisruptiveなイノベーションにつながる。挑戦する皆さんが新しい時代を創っていくことは間違いない。世界に伍するエコシステムを創れるかが、課題先進国「日本」の将来のカギを握っているだろう。この戦略を速やかに実行に移せるよう、政府一丸となって引き続き全力で取り組んでいきたい。

最後に一言。「disruptiveなイノベーション」をキーワードに、2回にわたって、世界に伍するスタートアップ・エコシステムの拠点形成について紹介させて頂いたが、私は、これ以外にも、disruptiveなイノベーションが起きる国への取組みを進めている。「ムーンショット型研究開発制度」と言い、従来技術の延長線上にない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発を推進するものだ。補正予算で1000億円を確保したところ、これまでにない、皆さんをワクワクさせるような発想、目標を検討している。広く皆さんからの公募も実施中だ。かつての米国・アポロ計画のように、壮大な目標を掲げその実現に向けたバックキャスト型の研究開発(ムーンショット型研究開発)の検討を進めているので、次回以降に紹介したい。