「手土産」を辞書で引くと以下のように書いてある.

「人を訪問するときに持っていく、ちょっとしたみやげ。」「デジタル大辞泉」

一般に,みやげ物のうちでも手軽なものを称して手土産と呼んでいる.プレゼントやギフトは,もう少しもったいをつけた特別なものを言う.特別なものであれば,相手が特定されるので,その趣味嗜好を反映したものを持っていけば喜ばれるであろう確率は高くなる.対する手土産は,もう少し手軽なものであり,無難なものであるのが好ましい.

しかし,送り手にとっての無難と,受け手にとっての無難とは必ずしもぴたりと重なっているとは限らない.そのためには,お手軽な手土産であっても,想定する受け手の年齢や性別,嗜好や持っていく際のTPOなどを想定することで「無難」の精度を高めることができる.

「ちょっとしたみやげ」である以上,あまり高価なものは相手を恐縮させるので好ましくない.さりとて,もらってもうれしく無いようなものであれば手ぶらで行く方がまだましだろう.

作家の山口瞳は御祝儀の達人だった.わずかな潤滑油が人とのかかわりの角を取り滑らかにするのであれば山口瞳を大いに見習いたい.さりとて,今のご時世では寸志やご祝儀を渡すのは少々重々しくなってしまった.そんな場面でも,手土産くらいならば大げさにならない.

これから紹介する予定の手土産は,いずれも自分が一度はどこかへ持っていき,相応の評価を受けたものだが,それがいついかなる場合にも歓迎されるとは限らない.贈り物は,相手の事を考えて選ぶ瞬間がもっとも難しいが,もっとも楽しい.