経営コンサルタント日沖健のブログ

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経営コンサルタント・大学院講師・ビジネス書作家として活動する日沖健がビジネスにとどまらず、社会問題・株式投資・グルメなど、幅広い話題をお届けします。

サイゼリヤ(7581)が先週7月10日、株主優待制度を廃止すると発表した。サイゼリヤは、1年以上継続して同社株を保有している株主に対し、自社店舗で使える優待券を配布する優待制度をこれまで実施していたが、今後は実施しないという。

サイゼリヤ株は、優待目当ての個人投資家に人気の銘柄だったので、その夜からSNSには「かなりショック…」「明日はストップ安で寄り付かないのでは?」といった株主の悲観投稿があふれた。

翌日、サイゼリヤの株価は、前日の終値5,750円から約7%下げて、5,350円で寄り付いた。私はサイゼリヤ株をコロナショック時に500株買って持ち続けており、一晩で20万円含み益が目減った。

ということで一瞬ギョッとしたのだが、私は今回のサイゼリヤ経営陣の意思決定を次の2つの理由で全面的に支持する。

一つは、優待券が店舗の運営効率を悪化させているからだ。

私はサイゼリヤの優待券を使ったことがないが、優待券を導入している他の外食チェーンを見ると、優待券や各種クーポン券・ポイントなどに対応するためレジの作業が複雑化し、レジ係にとって大きな負担になっている。優待券のせいで店舗の運営効率が落ちて、最終的に株価が下がったら、株主にとって本末転倒だ。

近年、人手不足が深刻化していることを受けて、レジ作業の効率化・省人化が外食チェーンの大きな課題になっている。丸亀製麺のトリドール(3397)は、この7月から優待券をカード化し、楽天ポイントの付与を停止した。他にも多くの外食チェーンで改善の動きが始まっているが、そもそも株主優待を止めるというのは、効率改善に最も効果的だ。

もう一つは、株主優待の廃止で株主平等の原則が守られるからだ。

日本では上場企業の4割に当たる約1,500社が導入している株主優待だが、海外ではあまり見かけない(ゼロではないらしい)。なぜ海外では株主優待が普及していないかというと、株主優待は株主平等の原則に反するからだ。

サイゼリヤのような外食チェーンの場合、機関投資家や店舗がない地域に住む個人株主は、優待券をもらっても利用できない。その場合、チケット屋で換金するか、紙くずになる。株主優待は、利用できる株主と利用できない株主の間で著しく不公平である。

近年、物言う株主が注目を集めている通り、企業経営に対する株主の影響が強まっている。桐谷さんには申し訳ないが、個人株主を過度に優遇する株主優待は、機関投資家にとって見過ごせない問題である。

このように、今回のサイゼリヤの株主優待廃止は英断なのだが、今後、他の日本企業に波及するだろうか。

もはや自動車産業ですら国際競争力を失いつつある衰退途上国・日本において、外食はインバウンドや〇風俗と並んで数少ない有望産業である(本欄「2040年の日本の主力産業」参照)。サイゼリヤは、すでに日本よりも海外でより多くの利益を稼いでいる。

今後、外食チェーンが真のグローバル企業として発展する上で、株主優待という日本独自の制度で日本の個人株主を過度に優遇するのは、得策ではない。

個人的には、今回のサイゼリヤの動きが他社にも波及し、株主優待という奇怪な制度がなくなり、日本が誇る外食チェーンが世界で認められるようになることを期待したい。

なお、サイゼリヤの株価は、7月11日に一時、前日比9%安まで下げたものの、すぐに盛り返し、7月12日には5,870円(7月10日比120円高)で引けた。業績が好調なせいもあるが、一部の無知な個人投資家が狼狽売りをしただけで、機関投資家は上記の理由で会社の決定を歓迎しているのだろう。

(2024年7月15日、日沖健)

 

 

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