アメリカのイラン攻撃を受けて、原油価格が高騰している。戦乱が長引けば、わが国のマクロ経済や国民生活に甚大な悪影響が及ぶ。一刻も早い事態収束を期待したいものである。

ところで、ニュースなどで「わが国は原油輸入の約9割を中東諸国に依存している」という解説を聞いて、昔を知る人は「へえ、今でもそうなんだ」と驚いたのではないだろうか。

1973年のオイルショックで経済が麻痺したわが国は、その後、自前の原油の確保を目指して世界各地で油田開発を進めた。しかし、成果はほとんどなく、依然として中東産油国に原油供給を依存している。

また、地球温暖化対策の要請もあって、化石燃料(石油・石炭・天然ガス)から太陽光・風力・地熱など自然エネルギーや原子力発電への転換を目指した。しかし、こちらも目ぼしい成果はなく、わが国の1次エネルギー供給に占める化石燃料の割合は83.5%(2022年度)と高止まりしている。

どうして、半世紀以上も努力しているのに「脱中東」「脱化石燃料」が進まないのだろうか。理由は、コストと利便性だ。

現在、アメリカが世界最大の産油国である通り、原油は世界各地に埋蔵されている。ただ、大半の油田は地下や海底の深くにあり、探索・採掘・生産に莫大なコストが掛かる。一方、中東産油国、とくにサウジアラビアやイランでは、地表あるいは地表近くに油田があり低コストだ。コスト面では、「脱中東」は極めて難しい。

多くの自然エネルギーは、コストが高い上、生産量が安定しない。輸送や貯蔵が難しいという欠点もある。一方、石油は生産調整が容易だし、液体なので、タンカーで大量に輸送し、何百日も貯蔵できる。コストだけでなく、利便性の面でも「脱化石燃料」は至難の業と言えよう。

過去、1980年の第二次オイルショック、1991年の湾岸戦争、2012年のイラク戦争など、中東で紛争が起こるたびに、わが国では「脱中東」「脱化石燃料」が叫ばれた。しかし、コスト・利便性の差はいかんともしがたく、危機が収まると「喉元過ぎれば熱さを忘れる」で「中東依存」「化石燃料依存」に戻る、という繰り返しだった。

こうした石油を巡る半世紀の歴史を振り返ると、慎重に考えなくてはいけないのが、中国への依存度が高いレアアースだ。

昨年11月の高市首相の台湾有事発言への対抗措置として、中国はレアアースの日本への輸出を制限している。これを受けて政府は、日本近海でのレアアースの探査を加速させている。先日、南鳥島周辺海域でレアアースを含む泥が発見されたという報道があった。

こうした探査がうまく運び商業生産されれば、いずれ中国依存から脱却できるだろうか。そう願いたいが、水深約6,000メートルの深海底からの採掘・生産には莫大なコストがかかり、地表付近から環境被害を無視して掘りまくる中国にコストでは太刀打ちできない。生産できたとしても、買い手の日本企業は見向きもしないだろう。

いまは「脱中国」で盛り上がっているが、日中の緊張関係が緩和したら、「喉元過ぎれば」で国内のレアアース探査は下火になるだろう。中国に対してファイティングポーズを取り、「脱中国」を目指すのは、大金を日本近海に捨てるだけだ。日中関係を修復し、中国から安定的にレアアースを調達する方が得策だろう。

もちろん、国際政治は経済合理性だけで動くものではない。しかし、経済合理性を無視した政策が長続きしないというのも、厳然たる事実だ。高市首相には、日中関係の修復について冷静に検討して欲しいものである。

(2026年3月9日、日沖健)

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