経営コンサルタント日沖健のブログ

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経営コンサルタント・大学院講師・ビジネス書作家として活動する日沖健がビジネスにとどまらず、社会問題・株式投資・グルメなど、幅広い話題をお届けします。

戦前、わが国は外国人留学生を積極的に受け入れた。中国などアジア諸国から多くの若者が来日し、大学などで学んだ。

周恩来は1917年に来日し、明治大学政治経済科などで学んだ。1949年の中華人民共和国建国後、国務院総理(首相に相当)に就任し、1971年のニクソン訪中を主導するなど中国の国際社会での地位確立に尽力した。1972年には日中国交回復を実現した。

李登輝は日本統治下の台湾で生まれ、1943年から京都大学農学部で学んだ。戦後、学界から政界に転じ、1988~2000年には総統として台湾の民主化・近代化を推進した。また、世界が台湾と距離を置く中、日台関係の維持・発展に努めた。

外交ではリーダーがお互いの国を深く理解し、信頼関係を構築することが大切だ。周恩来・李登輝、あるいは(日本への留学経験はないが)韓国の金大中、インドネシアのスカルノといった知日派・親日派のリーダーがいたことで、戦後のわが国のアジア外交が安定し、発展したのは疑いない。

外交だけでない。経済・文化・スポーツなど色々なところで、留学生がわが国の発展に大きく貢献した。世界の覇権を握ったイギリスやアメリカが世界中から留学生を積極的に受け入れた通り、留学生(=ファン)を増やし、自国民と交流し、切磋琢磨することは、国家の発展にとって極めて大切だ。

という歴史を振り返ると、気になるのは最近のアメリカと日本だ。

世界一の留学生受け入れ大国だったアメリカでは、トランプ大統領が「アメリカファースト」を掲げて、留学生を制限している。そして、中国などがアメリカを追われた留学生や研究者を自国に勧誘している。長期的にアメリカの国力を低下させ、中国などを利することは明らかだ。

日本も心配だ。わが国では、2008年に福田康夫元首相が「留学生30万人計画」を打ち出し、岸田元首相が2023年に受け入れ数を2033年までに40万人にする目標を掲げ、留学生の増大を進めてきた。こうした政府の方針が、いま岐路に立たされている。

10月の高市首相の台湾有事発言を受けて、中国・教育省は「最近、日本の治安状況は悪化しており、中国人を狙った犯罪が多発している。日本への留学計画を慎重に検討するよう勧める」という通知を出した。

これを受けて、すでに日本への留学予定をキャンセルする例が出始めているようだ。日本に来ている全留学生の3割以上、約12万3000人が中国人だが、日中の対立が長引けば、留学生が減るだろう。

これに対してネットでは、「うざい中国人がいなくなるのは大歓迎!」「外国人留学生を支援するのはおかしい。まず日本人学生を支援するべきだろ」という声であふれている。

これは、国民の中国人への嫌悪感によるところが大きいが、それだけではない。実は就労目的で来日して大学に通わない留学生が多数存在すること、一部の私立大学が学生数確保のために質の悪い留学生を受け入れていることへの反感もありそうだ。

外国人留学生にはこうした色々な問題がある。というのは事実だが、だからといって、「外国人留学生は悪。制限せよ、いや排除せよ」という議論に向かうのは、いかがなものか。「悪徳弁護士がいるから弁護士なんてすべて無くしてしまえ」と主張するのと同じで、まったく国益に反する。

高市首相には、排外主義という幼稚なポビュリズムに流されることなく(本人が煽っている節があるが)、より多くの外国人留学生に日本に来てもらえるように政策を推進して欲しいものである。

(2025年12月22日、日沖健)

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