あらすじ

長野県、水挽町(みずびきちょう)。自然が豊かな高原に位置し、東京からも近く、移住者は増加傾向でごく緩やかに発展している。代々そこで暮らす巧(大美賀均)とその娘・花(西川玲)の暮らしは、水を汲み、薪を割るような、自然に囲まれた慎ましいものだ。しかしある日、彼らの住む近くにグランピング場を作る計画が持ち上がる。コロナ禍のあおりを受けた芸能事務所が政府からの補助金を得て計画したものだったが、森の環境や町の水源を汚しかねないずさんな計画に町内は動揺し、その余波は巧たちの生活にも及んでいく。

 

  感想

『偶然と想像』『ドライブ・マイ・カー』などの濱口竜介監督の最新作。

第80回ヴェネチア国際映画祭では銀獅子賞受賞作品。

 

昨年観た石橋英子さんのライブパフォーマンス映像作品『GIFT』と同じ映像素材を利用しつつ、劇映画として別途編集された作品となっています。

 

長野県の自然豊かな町にグランピング場を作る話が舞い込み、説明会が開かれるが自然や生態系のバランスが崩れる危険性をはらみ、話し合いは平行線となる。その町に代々暮らす親子にアドバイスを求めるというお話。

 

何で今作がサイレント映画『GIFT』として企画されたかが、『悪は存在しない』を観てやっと分かったような気がしました。

 

主演の親子を演じる2人が演技未経験で、台詞のないシーンは観てられるのですが、会話シーンにおける違和感がかなり大きく、俳優とのからみが浮いてしまっています。

サイレント映画なら気にならない部分だっただけに、主演だけに大きなポイントでした。

 

ただ、過去作(「ハッピーアワー」など)でも俳優経験のない方との化学反応は上手くいっているケースもあり、今作でも特に説明会のシーンでは、演技経験の有無を生かした演出になっているのを感じ、知らせたい情報、物語の集中線がバランス良く配置された名シーンになっていて、そこは良かったです。

 

全体的に台詞が少なめのために、台詞のあるシーンのウエイトが高く、後半に起きる事件の伏線としての主人公の設定や鹿の事などは少し分かり易すぎる一方で、ラストシーンにおける主人公の性善説を裏切る行動の意味の理由付けとしての行動原理は描き切れていない印象が残り、インパクト以上に納得のいくラストシーンにはなっていないと感じました。 

 

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