◇あらすじ◇

子供の頃、活動写真小屋で観た活動弁士に憧れていた染谷俊太郎は、今ではニセ弁士として泥棒一味の片棒を担いでいた。そんなインチキに嫌気がさした俊太郎は泥棒一味から逃亡し、とある小さな町の映画館・青木館に流れつく。

そこは隣町の映画館に客も人手も引き抜かれ、閑古鳥が鳴いていた。そこで働く事となった俊太郎は、本物の活動弁士になることが出来ると、期待に胸を膨らませていたが、雑用の毎日。

泥棒一味から奪った大金を取り戻そうする凶悪な泥棒や、それを付け狙う刑事にも目をつけられる始末。そんな中で再会を果たしたのが、子供の頃に夢を語り合った幼なじみの初恋相手だった。

 

◇感想◇

「Shall we ダンス?」などで有名な周防正行監督の最新作を観に行ってきました。

 

予告編を観た時、大袈裟な演技やドタバタした雰囲気のシーンの数々に、自分に合うタイプの映画なのか、心配になりましたが、観終わったらそんな心配が吹き飛ぶほど、大変面白い映画でした。

 

一番面白かったのは、タイトルの元となっている「活動弁士」という上映されるサイレント映画(日本では活動写真)の場面の説明をしたり、役者の代わりにセリフを喋ったりする職業の魅力に溢れている事。

 

同じ映画でも、弁士の個性によって、全く違った作品に感じてしまったり、映画よりも弁士たちの人気で劇場が支えられていた事など、当時の劇場の雰囲気が事細かく再現されていて、特に主役の染谷俊太郎役の成田凌さん活弁のシーンは異なるタイプの映画に対して、または役に対して、表現豊かに演じられていて魅了されました。

 

最も魅力的だったシーンは、主人公とは対照的に過去の弁士のスター的存在で、今は毎晩飲み歩き当時のやる気がなくなってしまったかのような山岡秋聲役の永瀬正敏さんが、サイレントからトーキー(サウンドトラックが収録された現在の映画の形式)に変わっていく時代の流れで、活動弁士の存在意義を問うシーンです。

 

活動弁士は日本固有の存在ですが、音が入る事で脚本も洗練されていき、弁士の説明が無くとも状況の把握や、感情の起伏などの情報が映像で完結した形で提供されるようになり、活動弁士が必要なくなっていったという事ですが、今作ではそこは中心には描かれず、活動弁士とその周辺の世界を描く事に注視しています。

 

活動弁士ともにスクリーンには、モノクロ映画が映し出されているのですが、当時のものと新作を組み合わせた映像かと思いきや、パンフレットによると全部新作撮り下ろしだという事に驚かされました。その再現度にも注目です。

 

大袈裟に見えるような演技や、ドタバタ喜劇に見えるようなシーンも当時のサイレント映画のような感じを狙ったものという事にも気づかされました。最初から最後まで観ると、そんな不自然な演技でもなく、活弁を通した世界観といえば、それが自然のように見えてきました。

 

正直、まだまだ言い足らないくらい魅力に溢れた映画です。

当時の雰囲気を再現する事に留まらないエンターテイメントな作品になっています。

エンドロールの最後まで見どころですので、最後まで席を立たずに観て欲しいです。

 

 

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