【恋は突然始まった…21 父と息子】

 

ヨンと出かけた先は、いつもの病院。

手を繋いで、病院に入って行くのに違和感があり、緊張した。落ち着かなかったが、隣には大好きなヨンがいる。私を守ってくれる人。

 

 

特別室近くのナースステーションには、マンボ師長と、リョーコ主任がいた。

師長の片腕のリョーコ主任はテキパキと働き、その隣りには、リョーコから指導を受けるビブがいた。新入りは何かと失敗が多いが、リョーコ主任が優しく指導する。

 

「せ~んぱ~い!」

とビブは、いつもリョーコ主任を追いかけている。ビブはまだ看護師の仕事は半人前だが、明るく元気、入院患者からは人気者だ。

 

 

 

 

 

「マンボ師長、おはようございます」

チェヨンがナースステーションの前を通り過ぎる際に話しかけた。

「チェ家のご子息、おはようございます」

マンボ師長が言う、

「おはようございます」

リョーコ主任とビブも続けていう。

 

「あれ後ろのお嬢さん、よく会うわね?確か医学部の学生さんだったかしら?」

マンボ師長が言うと、

「はい、医学部四年のユウンスと申します」

「あ~あなたが、今話題のウンチュさんなんだね~」

ニタッと笑いかけて来た。

「師長、からかいすぎですよ、やめてください」

ヨンが言うと、

「そうですよ、師長、仕事仕事ですよ」

真面目なリョーコ主任が去って行った。

その後ろは勿論、「せ~んぱ~い!」と追いかけるビブの姿があった。

 

 

 

 

特別室の前にチュソクとトクマンが立っていた。

「ヨン様、おはようございます!」

「父さんはひとりか?」

「ドチ秘書と一緒です」

「そうか」

「先ほどまで、ミギョン様がいらっしゃいました」

「そうか、叔母上が…分かった」

 

 

 

 

トントン…

ノックに気付いた秘書のドチは、ヨンとウンスを迎え入れ、退室していった。

 

「父さん、おはようございます。お加減はいかがですか?」

「おう、ヨンァか、もう大丈夫だ、ヨンァ、こちらの方だね?」

「はい、父さん、俺の大切な人、ユウンスさんです」

「そうか、ヨンァが、選んだのだのだな」

「はい、運命の人に出会えました」

微笑んでウンスの顔をじっと見ている父であった。

 

「初めまして、ユウンスと申します。この大学の医学部四年生です。宜しくお願い致します」

「私はヨンの父親でチェウォンジクと申します」

「お加減は如何ですか?」

ウンスが心配そうな顔つきで伺うと、

「あっ、早期治療が出来たから、大事には至らなかったよ」

「それは良かったです」

 

「ウンスさんは、何科を希望しているのかね?」

「はい、心臓外科です」

「私が手術でお世話になった心臓外科か、勉強も大変であろう」

「はい、確かに大変です」

「そうか」

 

「父さん、突然で申し訳ないのですが、こちらのウンスさんと結婚したいと思っています」

「ヨンァ、本当に突然だな、どうした?この方はまだ学生であろう」

「側にいて欲しい人なのです。離れたくないのです」

「いつもは慎重派のお前がそんなことを言うのは珍しいな」

「慎重だから、ウンスさんに出会うことが出来ました」

「ヨンァ、面白いことを言うな」

「探していた人がやっと見つかりました」

「そうなのか」

 

チェウォンジクは遠い遠い昔、この言葉をヨンから聞いたような気がしていた。

これはデジャブか。あれだけ見合い話を断り続けていたヨンァがこの恋を貫くのか、私と同じだな、

一つ若者を応援するとするか、ウォンジクは考えていた。

【※【東屋…5 ヨンのお義父様】               

 

 

「結婚するということは家庭を築くことだ。社会人として一人前になったら自信もつくであろう。しかし、今のヨンァはまだ仕事で一人前とは言えないと思うぞ」

「はい、分かっております」

 

「自覚があるんだな。父親としては喜ばせて貰っている。次はヨンァの上司としても喜ばせてもらいたいものだ。結婚を前にひとつ、大きな仕事をしてみないか?それからでも遅くはないだろう」

「分かりました。父さん、婚約式も何もいりませんから、ウンスさんを婚約者として俺の側に居てもらうことをお許し願います」

 

「婚約式を不要か、お前が決めることか?そんなに急ぐことなのか?」

「はい、俺が必要とする人だからです」

 

「そうなのか、そんなにウンスさんはヨンァに必要な人なんだな。ウンスさんはどうなんだ?」

「私はまだ学生でヨンさんに出来ることは限られていますが、ヨンさんの側にいたいです。少しでもヨンさんのお役に立ちたいです」

 

「ウンスさんにとってもヨンは必要な人なんだな、分かった許そう。ウンスさんを幸せにすることで自立心が高くなり、より責任感も養われていくだろう。ウンスさんを大切にしなさい。そして、仕事もしっかりとしなさい。」

「はい、分かりました。父さん、ありがとうございます。こんな嬉しいことはありません」

「お父様、ありがとうございます」

深々と頭をさげるふたりであった。

 

 

「ヨンァは幼い頃から、我儘を言ったり、何かを強請ったりするような子ではなかったな。初めてであろうか、そんなに感情をむき出しにしているのは?」

 

ウンスが不思議そうにヨンの顔を覗いた、

「そうですね、そうかも知れません。この家に生まれて、何かをする前から諦めてしまうことが多かったかも知れません。それは、俺がそのことに対して、興味を抱かなかったからだと思います。ウンスさんのことになるとあれもこれもしたいと思う自分がいます」

「そうなのか。昔どこかで聞いた言葉のようだな、あははは」

何を隠そう、父ウォンジクが自ら父親にいった言葉だったことを目を細めて思い出していた。

 

「父さん、ウンスさんはこれから、病院実習に入り、国家試験に向けての勉強が始まります。一人前になるのは30前後と言われているので、会う機会も少なくなリます。俺はそういうウンスさんを支えたいと思っているので、会わない時間が増えれば、お互いの精神状態も悪くなります。逃げたり隠れたりせず、堂々と一緒に暮らしたいと思っています。お許しください」

 

「堂々か、ヨンらしいな。ふたりで決めたことなのか」

ウォンジクの目が、ウンスに聞いてきた。

 

「はい、ヨンさんはそう言ってくれましたが、正直、私はヨンさんに相応しい人間かどうか分かりません。でも、ヨンさんの側にいて、ヨンさんの心をお守り出来たらと思います」

「ヨンァの心をか…。医師になるのに、ヨンァは邪魔ではないのかね?」

「そんなことはないです。ヨンさんが側に居てくだされば、もっと強い医師になれそうです。優しく背中を押してくれて、私に勇気を与えてくださる人ですから」

「ヨンが優しいか」

にっこり微笑む、ウォンジク。

ヨンははにかんでいる。

 

病室に優しい風が吹いているようだった。

優しい風は幸せを運んでくれる。

 

 

 

「ヨンァ、屋敷に私の未来の主治医を置こうと思う」

ヨンは満面の笑顔を浮かべている。

 

「優しい風が心地よく感じてね。ウンスさんは、優しい風みたいな人なんだね。

学生なんだから一生懸命勉強しなさい。残った時間はヨンに力を貸してあげて欲しい。ふたりで幸せになりなさい。私が願うことはそれだけだ」

「父さん、有難うございます」

ヨンは泣き声になっていた。

ウンスは嬉しさのあまり声が出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

そして、ヨンの婚約者となった。

マンボ師長は嬉しさのあまり、病院中に広げてしまっていた。

 

 

 

 

-続-