【恋は突然始まった5 自宅】

 

 

「お帰りなさいませ」

使用人頭のミタが玄関にお迎えに出て来た。

チェ家に50年働く、スペシャリストのメイド。

年寄りである故、自らを「使用人」「婆や」「家政婦」と言い、

けっして自分を「メイド」とは言わない。

表情は硬いが、いかなる時も冷静沈着。

昔は綺麗であったのだろう、そういうことにしておこう。

その後ろには、サク、ミタゾノ、アキコが並んでいた。

 

「悪いが今日は食事を先にしてくれ」

「私は先にお風呂がいいわ」

「ウンビョルはママがいい」

「承知しました」

ミタは頭を深く下げた。

 

寝室に戻ったヨンは、ネクタイを緩めながら、

キングサイズのダブルベットの上に大の字に

なって、ウンスのことを思い出していた。

 

俺はどこで見たんだ

何故思いだせない

ジャケットのポケットから、

またウンスのハンカチを出し、

鼻に近付ける

 

ちぇ、消毒の匂いすら消えたわ

明日も病院で探すぞ

 

 

 

 

 

一方のウンスは、

アパートに帰宅し、ソファーに座り込んだ

帰りあの男の人の隣に乗っていた女性のことを考えていた

 

いい男ってさぁ

結婚しているのよね

左手薬指に指輪なんてしちゃってさ

妻に拘束されていますなんて、

あ~もういやいや。

 

目が大きくて、黒くて長い髪。

素敵な女性だったな

奥さん、年上かしら?

あの男の人って、いくつぐらいなんだろう?

落ち着いていたわ。スーツなんて着ちゃうと

男の人の年齢なんて、分からないのよね。

いいな、あんな素敵な奥さんに可愛い女の子。

医師なんてさ、三十過ぎないと

一人前になれないのよ。

あ~あ、彼氏欲しいな。

おっとその前に課題のレポートレポート。

シャワーをしたら、コンビニ弁当食べながら、

頑張ろう。

 

 

シャワーを済ませ、

髪を拭きながら机に戻って来た

さぁ~勉強勉強

ウンス アジャアジャ ファイテン

さあ、眠眠打破も飲むわよ~

 

 

 

 

こけこっこー鳥

次の朝だった、

一限休講、少し早めに大学に着いたウンスは

先輩のダヘのところに寄っていた

ダヘは夜勤明けだと

言っていた

借りた文献を返しに行っていたのだ

 

長い下りのエスカレーターの途中で

見てしまったのだ

 

ウンビョルちゃんがパパに抱っこをされ

奥さんがその男の人に寄り添っている姿を

素敵な夫婦だと思った

美男美女 ガーン

朝から最悪なシーンに出くわしてしまった

 

 

ウンチュだ、わ~い

ウンビョルの声

すれ違いざまに

その男は振り向いた

 

見たくない

あんなに幸せそうな親子を見て

心が苦しくなった

次の講義が出席重視じゃなかったら

帰りたい気分だった

もうダメ、立ち直れない

 

 

 

ヨン

あの女性、お医者様?

 

あっ、そうだ。

昨日、ウンビョルが世話になった

 

ふ~ん、綺麗な人ね

何科の先生?

 

知らない

 

ふぅ~ん

さぁ ウンビョル おじい様のところに行きましょう

叔母様、来ているかしら?

 

知らん

ヨンは不機嫌であった。

 

 

 

 

メイド役

アキコ 「家政婦は見た!」の市原悦子さんが演じた役名