病棟勤務の話です。
以前私が働いていた病棟には入口の横の壁に大きな鏡がつけられていました。
その壁の向こうはお風呂場。
その鏡からまっすぐに向こう側を見ると一直線に廊下
そして病棟の出入り口のドアがありました。
ドアを開けるとまたすぐに廊下になっていてその先には霊安室がありました。
霊安室から鏡まで一直線に結ばれているような古い建物の病棟です。
詰所からは廊下が見える大きな窓があり、そこで夜勤中、机に座り仕事をしていました。
ある夜勤の日、同僚から机の位置を替わって欲しいと要望がありました。
その時、私は廊下を背に座っている状態。
彼女はその反対側で廊下が見える位置に座っている状態でした。
彼女が言うには
「こんなこと言うと変に思われると思うんですが、気持ち悪いんです」
どうも廊下が気になって仕方ないとの事。
特に私は何も感じないのですぐに席を替わりました。
それ以後も特に何もなく経過していたのですが・・・
深夜1時を過ぎたころ、カルテを書き終えふと廊下側に目をやると
黒いもやのような影がすーっと鏡の方向に流れたような気がして・・・
「見間違いかな?疲れてきたかな?」
そう思って廊下を見ていた私に同僚が気が付き
「どうしたんですか?」
「いや、なんかちょっと黒いものが・・・」
と、言った瞬間
「やめてください!」
おびえたように叫ぶ同僚。
「どうしたの?そんなにビックリして」
と、私
意を決したように同僚が語りだす。
「前に私も黒い影をみたことがあるんです。鏡に吸い込まれるように入っていくのを」
「やめてよ、こんな夜にそんな怖い事をいうの」
真剣に言う同僚の話が怖くて話を遮ろうとすると
「その影を見た日に患者さんがなくなったんです・・だから怖くて」
もともと終末期患者さんの多い病棟
偶然、そう感じたんだろうと思うことにしました。
「もう、この話は止めよう、たぶん私の見間違いだから」
と、同僚を落ち着かせようと言いました。
そして深夜3時の巡回。
同僚が慌てて知らせに来ました。
「〇〇さんが息をしていません!」
全くノーマークの患者さん。
まさかと思いかけつけると顔面蒼白で呼吸停止状態だった。
そこからドクターを呼び蘇生をしながら家族連絡。
残念な事に患者さんはお亡くなりになりました。
はっきりした原因はわからないまま
急変して亡くなる事はありましたが、同僚とそんな話をしていた夜勤だけになんとも言えない気分で・・・
それ以後、私はその鏡を見ることが出来なくなりました。
夜勤も廊下を背にし見えないように座ることが多くなりました。
ただの偶然かもしれませんが、いまだにあれが本当に見えたのか見間違いか
今は、もうわかりません。