精神科病院勤務の話です。

 

その病院へ転職して4年目の頃

ある患者さんとの出会いがありました。

 

彼は私より15歳年上で夫と同じ年。

統合失調症を患う透析患者さんでした。

 

透析は週に3回、クリニックにて行っていました。

 

彼は背が高く、顔はいかつく威圧感のあるタイプ。


第一印象は怖そうな患者さんだな、でした。

 

入院当初はおとなしく問題行動を起こすこともなく経過していたのですが

 

ある日

私の夜勤帯の時に突然豹変しました。

 

いきなり詰所に入ってきて

「ちょっと来い!」と怒鳴りながら私に詰め寄ってきました。

 

理由を聞いても

「いいから俺の部屋に来い!」と興奮収まらない様子。

 

すぐに当直ドクターを呼びました。

 

ドクターが来るとさっきまでと違っておとなしくなり部屋へ素直に戻ります。

 

そしてドクターと冷静に話をしている様子。

 

ドクターも

「特に問題ないとおもいますが」と私たちを疑っている様子。

 

そしてドクターが病棟を後にすると、すぐさま詰所へ押しかけ、さききほど同様怒鳴り始める。

 

また、ドクターを呼ぶと大人しくなる。


このやりとりを夜勤で3回ほど繰り返しました。

 

病棟夜勤は女性3人だったので、体の大きい60代の彼は私たちにとって恐怖でした。

 

特に私は対象になっていたようで、夜勤の度にやってきて自分の部屋へ来いと怒鳴ります。

 

私も覚悟を決め、彼の部屋へ行き話すことにしました。

 

「ここに座れ」と彼はベッドに腰かけている自分の横を指さします。

 

腰かけながら、同僚の看護師に何かあればすぐにドクターコールを頼みドアの傍で待機してもらいました。

 

座ると彼はブツブツと何かを話し始めましたが、よく聞き取れません。


とにかく傾聴しながら傍で見守っていると

 

「もういい、寝る」と言って横になりました。

 

話の内容は聞き取れませんでしたが、見守って欲しかったのかもしれません。

 

以後も決まって私の夜勤の時だけやってきました。


そして部屋でしばらく横で座っていると寝る。


その繰り返しでした。

 

やがて薬も増えたことでだんだんと落ち着いてくる日が増えてきました。

 

ある日の昼間

井上陽水さんの「少年時代」を口ずさみながら涙を流している彼の姿がありました。

 

彼にとって思い出深いものがあったのでしょうか・・・

 

その後、だんだん身体的に悪化し最終的にはクリニック先で亡くなったと連絡が入りました。


彼にとってどんな人生だったのか?


幸せを感じられる時があったのか?


今は確かめることが出来ません

 

ただ私にとっては苦手な患者さんではありましたが今も記憶に残る患者さんです。