東京オリンピックで日本中が沸き立つ年に生まれた。
長女だった。
初めての子だった。
両親は喜んでくれたと思いたい。

小さい時から、夢見がちだった。
夢見がちだと思ってた。

テレビで見た、怪獣や怪人がいかきっと、本当に襲ってくると思っていた。
家にいても、一人だと布団から顔も手も足も出すことができなかった。

何にあんなにおびえていたの考えてみる。

隙間が怖かった。
母のしつけがきびしかったおかげで、押し入れの隙間やたんすの隙間が怖かった。

「夜中に隙間のお化けが出てきて、連れて行かれる。だから寝るときには、きちんと閉めなくては駄目だ」

この言いつけを、徹底的に守っていた。

ほかにもあった。

枕を踏んだら、親の死に目に会えない。
夜、爪を切ると蛇が来る。

まあ良く聞く話ではある。今となっては。

でも、当時の小学生に入るか入らないかの私には、とても大きなことで、とてもとても怖かった。

そんな記憶はあるのに、日常生活の記憶はほとんどない。
幼稚園の記憶など、皆無である。
通っていた記憶からない。

小学校の低学年はおぼろげに覚えてはいるが。

私には自閉症のこどもがいる。
心理の先生に聞いてみた。
「幼い時の記憶がないのです」
先生はおっしゃった。
「無理に思い出さないほうがいいのかもしれないよ」

そうかもしれない。
無理に思い出すこともない。


ただ一つ、覚えているのは
どこか知らないタンポポ畑を、風で舞ったカレンダーを必死で集めている幼い自分。

あんな場所に住んだこともないのに。
母に聞いても、そんな場とこには住んでいないという。
謎だね。

私の過去は、中学生のころから始まる。