花より電車の「みちのく三大桜」めぐり7
「急行もりよし号」は観光に特化した特別車両で運行されます。急行料金としてプラス320円でガイドさんが同乗し、4人掛けにボックスシートに食事がしやすいように大きめのテーブルがあり、車窓から外の景色が見やすいように、窓に向かった席も設えられています。途中駅を何か所か停まらずに通過して、普通列車より10分ほど早く角館駅に到着します。 阿仁合駅からの乗客も加わって、総勢8人にガイドさんを乗せて、急行もりよし号は阿仁合駅を出発します。 列車は阿仁合町の集落を過ぎると、列車の名前にもなっている森吉山の麓の渓谷に入っていきます。 「荒瀬駅」を過ぎるとほどなく昨年12月に脱線事故を起こした鉄橋部分にやってきます。ガイドさんから何かアナウンスがあるかな、とおもいましたが、特に何もなく通過しました。令和7年(2025年)12月12日の阿仁合発角館行の始発列車が、ここで倒木にぶつかって脱線し、車両は鉄橋下に転落しました。幸い乗客はなく、運転士さんは救出され、足に怪我をされたものの無事でしたが、ローカル鉄道の問題がまた一つ浮彫になりました。路線の安全確認のためのセンサーの設置などが進んでいない路線がほとんどで、運転士が目視による確認をしながら運行しています。鉄道はブレーキをかけてもすぐには止まれず、今回も倒木に気が付きながら、そのまま突っ込んでいってしまったのです。ローカル鉄道はどこも大赤字で安全設備への追加投資の資金はなく、ブレーキですぐに停まるには歩くようなスピードで車両を運行するしかありません。 無事事故現場を通過すると、秋田内陸線最大の見どころ、阿仁川に架かる「大又川鉄橋」です。秋田内陸縦貫鉄道が紹介されるときには、必ずこの渓谷の赤い鉄橋を通過する車両の映像や写真が使われます。列車はスピードを落としてゆっくり通過してくれます。窓に向かった席に移動して、阿仁川上流の渓谷の風景を目に焼き付けるのですが、今おもいだすと、どうしても鉄橋を渡る鉄道の絵が浮かんでしまいます。ガイドさんからは、この阿仁川の上流部分はかつては大又川と呼ばれていたこと、今は雪解け水で濁っているけれど、夏から秋には鉄橋の上からでも泳いでいる魚が見えるほど澄んだ渓流であることが説明されました。 珍名駅でお馴染みの「笑内(おかしない)駅」を通過、オカシナイという地名の由来はアイヌ語で、川下に小屋のある川という意味です。これだけ北東北にも多くアイヌ由来の地名が残っているのに、なぜ国はアイヌを北海道の原住民ということにしたがるのか、本当に不思議です。 そして列車は旧国鉄阿仁合線の終点だった「比立内駅」に到着、ここから先は秋田内陸縦貫鉄道に移管されてから延伸された路線です。 比立内駅を出ると、どうしてここが国鉄時代に未成区間だったかが、すぐわかります。 トンネルを抜け、線路は阿仁川の支流、打当川に沿って森林を進みます「奥阿仁駅」「阿仁マタギ駅」を通過、その先もまたトンネル、トンネル、トンネル・・・最長5,700mの「十二段トンネル」は入り口と出口の標高差が80mもあり、トンネルの途中から線路は急勾配を下って行きます。下り列車はここを登ってくることになる、という難所です。 そしてようやくトンネルの連続を抜けると「戸沢駅」、この駅から仙北市になり、車窓は田園風景、線路に沿って流れる川は秋田市から日本海に注ぐ雄物川の支流「桧内川」です。山を越えて川の流れが進行方向に変わりました。この地には戸沢氏が室町時代に建てた「戸沢城址」があります。 旧国鉄角館線の終着駅だった「松葉駅」は何ということのない棒線駅で、昭和の終わりに赤字でどうしようもなくなった国鉄が、ここで建設を投げ出してしまったことがよくわかります。 「八津駅」はカタクリの原生地で、駅の手前で運転手さんがスピードを落とし、ガイドさんが説明してくださいました。薄紫の可憐な花が咲きだしたところですが、この花が咲くまでには芽が出てから8年ぐらいかかります。それまで何をしているかというと、せっせと根に栄養を貯めているのです。カタクリという名前はその根(鱗茎といいます)が、栗を半分に割った形をしているからで、この根からからでんぷんが採れ、それが片栗粉です。今売っている片栗粉はほとんどがジャガイモのでんぷんですが、本来はこのカタクリの根から採ったでんぷんが片栗粉です。 急行もりよし号は、「角館駅」に到着します。所要時間2時間15分、運賃1700円、特急料金320円、計2,020円の旅でした。乗客としては破格の値段で、贅沢な時間を過ごさせていただいたことに感謝するしかないのですが・・・正直なところ5倍ぐらい、いえ10倍でも安いくらいとおもってしまいました。 秋田内陸縦貫鉄道は、平成7年(2025年)度は2億1841万の赤字を計上しています。同社は毎日の乗客数を発表していて、この日は275人でした。乗客全員が急行で鷹巣から角館を乗り通したとしても、売り上げは50万円程度しかありません。このペースで年間営業しても運賃収入だけでは赤字額にも届かないのです。沿線人口は少なく更に減少傾向、その上地元の方はほとんど利用しない、本当に先行き不安な秋田内陸縦貫鉄道です。 ガイドさんが、角館の桜まつりは明後日からですが、武家屋敷のしだれ桜はもう見頃ですよ、とおっしゃっていたので楽しみです。