古典文学鑑賞 江戸生艶気樺焼(えどうまれうわきかばやき) その12 | そろって浄土に弥次喜多道中膝栗毛

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残り少ない人生、死ぬのは苦しいものか、どうも痴呆老人になって死んでいくようだ。お寺の坊さんに頼んでいるが。
残りの人生、東海道中膝栗毛の弥次喜多道中のように気楽に行けないものか。

古典文学鑑賞 江戸生艶気樺焼(えどうまれうわきかばやき) その12

前号に引き続き 古典文学鑑賞 江戸生艶気樺焼 このお話しも いよいよクライマックス 艶二郎最後の頑張り  読め進めば読み進むほど なんというか 

艶二郎 勘当を受けれど 母親からは 金は必要なほど送るからという結構な御身分 女にもてたようなもてないような気分 さらに創意工夫はなきものかといろいろ考えるに 色男の浮気な

商売となれば 江戸ではやりの「地紙売り」(じがみうり)と相場は決まっております
そう思いいたれば 早速実行するのが艶二郎のいいところ 

「初夏のころおり扇の地紙を売り歩く行商人 注文によってその場で紙を折り、あるいは色を売る」(「大江戸ものしり図鑑」花咲一男著 主婦と生活社p136)とあります 色男なら地紙

売りが相場


       なまめいた声で呼ばれる地紙売

 
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                 (艶二郎 地紙売りにて 色男ぶりか)


しかし 地紙売りは 初夏の風物詩 時期外れならば 町中の噂に 大キな酔狂者だと 馬鹿な男よと つまらぬ浮名が立つのであります 

「鳥羽絵のやうな顔の人が通る。みんな来てみなせい」(p102) 鳥羽僧正作といわれる滑稽漫画 艶二郎鼻といわれる団子鼻 寅さんこと 渥美清も顔負けのいい男 

艶二郎は これまた 何時もの勘違い 女がいろいろ俺の噂をしているようだ 女に惚れられるのも困ったものだ 色男もいろいろ煩わしいぞなどと

しかし これからが また艶二郎の面目躍如 そうこうするうちに 七十五日の勘当期間が切れれば 実家からはやいのやいのの催促 艶二郎言うに まだ浮気をし足りねば 二十日の日延べ

を 
艶二郎 ここは最後の頑張りどころ その最後の手段とて 心中事件をと考え至るのであります

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         (艶二郎など 心中事件の筋立てに喧々諤々 一人浮かぬ顔の浮名)


これなら 町中 いや江戸中の噂になるものか これほど浮気な出来事もなかろうとか
しかし これからが大変 自分が命を捨てるのはこれは勝手なのでありましょうが 相手の女こ

れいい迷惑
手っ取り早く 今までの付き会いのある浮名に頼めど 浮名もびっくり こんな男のために心中

など真っ平御免と
困った艶二郎 悪友の北里喜之介とわる井志庵に相談するに ここは うそ心中に限るとて 心

中芝居を提案するのであります 面白い趣向ですよ
そうなれば 浮名には大金千五百両 これなら嫌とはいわないはずだ 浮名もしぶしぶ

浮名が南無阿弥陀仏と唱えるのタイミングを見計らって うそ心中の一芝居
そうなれば 早速 道具立て 艶二郎 浮名の二人が着る揃いの着物は派手な小袖模様に 「肩

に金てこ裾には碇、質におゐても流れの身」(p103)の派手な模様などをちりばめ 
さらに心中には 辞世が必要とばかり それなりの句を探し出し あろうことか摺物にして吉原

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              (いよ! 成田屋 待ってました 艶二郎の夢か)   


               「大江戸ものしり図鑑」花咲一男著 主婦と生活社 参考


の茶屋に配るなど その手筈も抜かりなく
その摺物も凝った作りに 艶二郎と浮名が蓮の花の上で一蓮托生の豪華な立体模様に これであ

れば 廓中の噂になること間違いなし 脇差も銀箔造りの豪華なものに
大分 大げさな心中事件の成り行きに これが江戸の粋というのかしら 艶二郎、喜之介 志

庵の生き生きした顔つきに比べ 浮名の浮かぬ顔つきが印象的であります 
女にもてない艶二郎なれども 思いつけば直ぐに実行するところがいいところ これは見習わ

なければなりません 何事も有言実行とゆきましょうか



         あんなのに それは 女がほれるもの



                       (同書 川柳 p394)