しかし、夫婦で不動産仲介業者に行き、一番奥の応接室に通されると、挨拶・名刺受け取りの後に営業マンが「いやあ、お問い合わせの物件、成約されてしまいましてねえ。ここ1週間で問い合わせが急増していたんですよー」と言った。
聞いた瞬間は「えーっ」と思ったが、ふと営業マンの顔を見ると、何故かニヤニヤしている。こういう時には少なくとも表面上は申し訳なさそうにするか淡々としているかを装うものだが。
すると、彼は腕に抱えていた膨大な書類を机上に広げてこう言った。
「なので、予め勝手ながら私がオススメする物件を多数ピックアップしておきました!ぜひお選びください!お気に召したのがありましたら手続きもすぐできますよ!」
巷で悪名高いおとり物件商法キタ━(゚∀゚)━!
実は売約済な物件をおとりにして客を呼び寄せ、本命である高い物件や売れずにもて余している物件等を買わせようとするこの商法、
おとり物件という言葉自体は知っていたが、最初の不動産仲介業者で本当にこれに当たるとは!
相方は、狙っていた物件が買えないとわかった事と、この展開の早さにきょとんとしてばかりだったが、私のほうは先述の「キタ━(゚∀゚)━!」があらわしているように、かなりハイテンションとなっていた。
「おとり物件、ガチだった!w」「ヤバイwボラれるwww」「最初でババ掴まされるw」
文字にするとこんな感じだった。
で、提示された物件の数々。「これらは弊社のサイトにもSUUMOにも載せていない未公開物件ですよ!お客様にぜひオススメしたいものばかりですー」との事だが、見てみると…
建ぺい率50%・容積率80%の土地20坪に建てられた2LDK、3階建て住宅6棟に囲まれた旗竿地の2階建て、後背と隣が墓地の家、やけにセキュリティがしっかりした家だなと思ったら暴力団事務所の目と鼻の先etc…
「これはひどいw」「まってwおなか痛いw」「よくこんな物件をこんな価格で売る気になったもんだな売主も仲介業者もw」
と、営業マンとは違う意味でのニヤニヤを私は禁じえなかった。なるほど、確かにこれはネットで大っぴらにしたくない物件だろうよ。でも早く売りたくて仕方ない物件だろうよ。
ところが、である。営業マンは私のそのニヤニヤを「好感触♪」と勘違いしたのか、グイグイとそれらの物件を推してくる。
そして銀行の住宅ローン申請用紙とか印紙とか用意を始めている。更にはアヤシイ風貌(←偏見)の上役らしきオッサンが数人わらわらと出てくる。
ヤバイwハメられるw借金苦自殺させられちゃうw遺書を書かなきゃwww
これは「契約するまで帰れま10!」的な番組か何かか??
私の謎のテンションは最高潮だった。しかし、相方のほうは常識人なので、この事態に顔面蒼白となり、一方で私のニヤニヤを理解不能と言わんばかりの目で見ていた。そりゃそうだ。
しかし、この状況をどう打開しようか。数秒ほどだが初めて深刻に悩む。
そんな中、相方は気分を悪くして口もとを押さえながら「トイレ…」と応接室を出ていく。
「えっ?大丈夫?」と相方を心配したのだが、この時、私は天啓を得た。
これは千載一遇のチャンスではないか!こう言うのも何だが、相方グッジョブ!
すかさず私は相方を介抱しに行くふりで応接室を出て、そのまま相方を抱き上げ、はぐれメタルばりにダッシュで逃げ出した。
こうして私は遺書をしたためて自殺する近未来を回避したのである。今このブログを書けるのも相方のおかげである。ありがとう、相方よ。
しかし、これで私たち夫婦のマイホームは遠ざかってしまった。今後どうしようか。最初がこうでは不安でしかないのだが…。
(次回に続く)