桜の季節の物語~哲学の道~ | カンタ印  元気印

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老夫婦が営む川沿いの喫茶店、あの日と同じ席に座り窓の外の桜並木を眺める。
 
店の中ではおっとりした感じのおじいちゃんが、奥さんにあれこれ言われながら、のんびりとお客の相手をしている。
 
変わらないなぁ…(笑) 年に1度ここに来るようになって、今年で何年目だろう?
 
あの日と違うのは向かいの席にあなたが居ない事だけ。
 
 
 
銀閣寺の参道から哲学の道に入って、この店でひと休みした。
 
ほろ苦いコーヒーゼリーを食べながら、私は彼との残りの時間を考えていた。
 
ひょんな事で数日を一緒に過ごしたが、その時間もあとわずかで終わる。
 
彼もその事を意識しているのだろうか? 心なしか口数が減ってきたように感じていた。
 
「俺さ、誰かと一緒に桜見たのって、久しぶりなんだよね」
 
その相手の事を思い出しているのか、懐かしそうに窓の外の桜を見つめている。
 
『最後に…』
 
「え?」
 
『何でもない(笑)』
 
最期に一緒に桜を見た相手は誰なの?…そんな馬鹿な事を訊こうとしていた。
 
店を出た後は、ほとんど会話もなく歩いた。 時々、立ち止まっては頭上の桜を一緒に見あげては視線を交わす。
 
「大切な人とさ、一緒に見たんだ」
 
先ほど私が言いかけた事がわかったのか、彼が突然言い出した。
 
「それからも桜は毎年見てるけど、誰かと一緒にって気にはなれなくて…。でも、何でだろうな?アンタとは一緒に見てもいいと思った」
 
振り向いた彼の優しい眼差しに、胸が苦しくなった。 彼の事はまだほとんど何も知らないのに…。
 
 
 
「お待たせ」おじいちゃんがコーヒーゼリーを運んできてくれた。
 
「今年も一緒じゃないの?」 それをテーブルに出しながら話しかけられた。
 
『え?』
 
「毎年この季節に来てくれるけど、別々だからさ。いつかみたいにまた一緒に来てよ」
 
それだけ言うと、おじいちゃんは奥さんに呼ばれ行ってしまった。 あとには混乱する私1人が残された。
 
ひとり歩く川沿いの道はあの日と同じように桜が咲き乱れている。
 
あの日そこから始める事なんてできなくて、私は黙って彼の前から姿を消した。
 
桜を見あげながら目を瞑る。 瞼の裏に桜を見あげていたあの日の彼が映る。
 
今の私でもう1度彼に出会えたら、今度は始めることができる私なのに…。
 
突然強い力で腕をつかまれた。振りむくと彼がいて、そのまま抱きしめられていた。
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